自傷は突然ではない。見えていない段階がある。

自分の頭を叩く、壁にぶつかる、髪を引く行動は突然ではありません。神経負荷の蓄積と段階的プロセスがあります。自傷の5段階モデルを構造的に解説します。

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自傷が起きる本当の構造|頭を叩く・壁にぶつかるまでの5段階モデル

自傷は「急に起きたように見える」だけ

頭を叩いた。
顔を引っ掻いた。
壁に頭を打ちつけた。
自分の髪を引っ張った。
腕を噛んだ。

目の前で起きるたび、周囲は「今すぐ止めないと」と思います。

でも、ほとんどの自傷は“突然の出来事”ではありません。
見えていないだけで、プロセス(段階)があります。


自傷の5段階モデル(他害と同じ構造で起きる)

  • ① 安定
  • ② 負荷上昇
  • ③ 前兆
  • ④ 飽和
  • ⑤ 爆発(自傷)

重要なのはここです。
⑤で止める支援は、消耗戦になりやすい。
勝負は③までに戻せるかどうか。


① 安定期:落ち着いて見える時間

一見、普通に過ごせている。
活動に参加できている。
笑顔もある。

ここで見たいのは「行動の良さ」ではなく、神経余力です。

表面上は落ち着いていても、土台が削れていることがあります。

  • 睡眠不足(短時間・中途覚醒・質の低下)
  • 空腹/食事間隔の長さ
  • 便秘・排泄の我慢
  • 感覚刺激の蓄積(音・光・人の密度)
  • 連日の緊張(学校/園/家庭の切り替え連続)

自傷は「ここで既に決まっている」ことがあります。


② 負荷上昇期:見逃されやすい削れ

自傷が減らない現場ほど、②を“何も起きていない時間”として扱います。

でも②は、実質的にもう始まっています。

  • 目線が落ちる/一点固定が増える
  • 動きが止まる(固まる)
  • 同じ動作を繰り返す(常同行動が増える)
  • 独り言・うなり・声の質が変わる
  • 身体に触れる行動が増える(頭・耳・口元・髪)
  • 回避が増える(机の下、隅、退出、伏せる)

「叩いてないから大丈夫」ではありません。
叩く前に、すでに神経は削れています。


③ 前兆期:自傷に向かう“身体の動き”が出る

前兆は「気持ち」より先に、身体に出ます。

  • 手が顔・頭・髪に増える(触る→つかむ→引く)
  • 頭を左右に振る/身体を揺らす
  • 呼吸が浅くなる/息が止まる
  • 声量が上がる・荒くなる
  • 視線が合わなくなる/一点固定が強くなる

ここで最優先は「説得」ではありません。
身体条件を確認することです。

前兆で必ず見る身体条件(固定順で)

  • 睡眠(昨夜・直近の質)
  • 食事量/空腹時間(間隔)
  • 水分
  • 排泄(便秘・我慢・不快)
  • 直前刺激(音・人・切り替え回数・失敗体験)

自傷の“理由探し”は後でいい。
まず神経を戻す。


④ 飽和期:抑制が外れる瞬間

④に入ると、言葉は通りません。

抑制機能が落ち、衝動制御が効きにくくなります。
分かっていても止められない状態が現実にあります。

ここを「わざと」「癖」「反抗」で片づけると、支援は壊れます。


⑤ 爆発期:自傷行動

⑤でできることは、基本的に二つだけです。

  • 安全確保
  • 刺激を増やさない(声・人・圧を増やさない)

分析・指導・反省は後です。
先にやると再発が増えます。


なぜ「年齢が低いほど自傷が多い」ことがあるのか

あなたの現場感覚(低年齢ほど自傷が前面に出やすい/先に自傷が減っていく/稀に自傷だけ残る)は、説明できます。

  • 外へ向ける力より、内へ戻す調整が先に出やすい
  • 要求表出が弱い時期ほど、身体で処理しやすい
  • 他者との距離・ルールが未形成なほど、衝突より自己刺激が出やすい

そして成長や支援の積み重ねで、
“外へ出す”行動(他害)より先に、内へ戻す行動(自傷)が減るケースがある。

ただし逆もあります。
自傷と他害は同じ土台(神経負荷)から、向きが違うだけのことも多い。


自傷と他害の違いは「方向」だけでは終わらない

自傷=自分に向く
他害=他者に向く

それだけだと浅い。

現場で重要なのは、
その子の“安全が崩れるとき、どこへ向かいやすいか”です。

  • 恐怖・不安が強い → 自傷が出やすいことがある
  • 衝動が強い/距離が近い → 他害に出やすいことがある
  • 要求が通らない/切り替え過多 → 両方出ることがある

結論:自傷か他害かを“性格”で決めない。
状態(神経負荷)で見る。


次の記事で扱うこと

ここまでで分かったのは、「自傷はプロセスで起きる」ということです。

次はその中でも勝負所、③(前兆)でどう止めるかを具体化します。


自傷(自分を叩く・引っ掻く・髪を引っ張る)|段階的に理解する

上から順に読むと、「止める」から「減らす」へ視点が移ります。


他害(叩く・噛む・物を投げる)も併発する場合

自傷と他害が同時に出るケースは珍しくありません。
併発している場合は、他害側のシリーズも並行して読むと「土台(神経負荷)」が揃います。