
強度行動障害の前兆とは|見落とされる理由・猶予時間・即時介入5手順まで【現場で使える構造】
「急に叩いた」「急に荒れた」――そう見えるだけで、前兆は必ずあります。
問題は、前兆が“見えていない”のではなく、見える形で出ていないことが多い点です。
本記事は、強度行動障害の前兆を「気合い」や「観察眼」ではなく、構造(モデル)と手順として整理します。
現場(放課後等デイサービス・児童発達支援)でそのまま使えるように、失敗例・成功例・即時介入・回復期・記録フォーマットまで網羅します。
この記事でわかること
- なぜ前兆は見落とされるのか(思想)
- 神経段階モデル(3段階)での見立て
- 「猶予時間」という発想
- 生理要因別(空腹・排泄・感覚など)の前兆の違い
- 新人・親がやりがちな失敗(リアル)
- 現場で使う即時介入5手順
- 回復期の扱い(ここで再発を減らす)
- 前兆記録フォーマット(共有できる形)
① なぜ前兆は見落とされるのか(思想)
前兆が見落とされる最大の理由は、「行動」だけを見て「意味」を当てにいくからです。
強度行動障害の前兆は、本人にとっては「体の不快」「刺激過多」「不安の増幅」「要求の詰まり」など、状態の変化として始まります。
しかし周囲は、状態の変化を見ずに、最後に出た行動(叩く・叫ぶ・壊す・自傷)を見てしまう。
この瞬間、支援は「前兆を拾って整える」から「行動を止める」へズレます。
さらに、前兆は“きれいなサイン”で出ません。
むしろ現場で多いのは、こういう形です。
- 急に止まる/動きが固まる(フリーズ)
- ソワソワ/うろうろ/落ち着きが消える
- 常同行動が強くなる(いつもより“きつい”)
- 視線が泳ぐ/一点凝視が増える
- 細部へのこだわりが突然増える(位置・ラベル・シール等)
- 声量が上がる/同じ声を出し続ける
- 触覚刺激を強く求める(強く抱きつく・強く触る等)
つまり前兆は、「悪いことの兆し」ではなく、神経が限界に向かう途中の段階です。
ここを見落とすと、最後の行動だけが目立ち、「急に荒れた」という誤解が生まれます。
② 神経段階モデル(3段階)
前兆を拾うには、行動の種類よりも「神経の段階」を見るほうが早いです。
現場で使えるように、3段階に落とします。
段階1:過敏化(まだ戻れる)
- 落ち着きが消える/ソワソワ
- こだわりが増す/細部が気になる
- 視線が泳ぐ/一点凝視
- 小さな不快で反応が大きくなる
この段階は「まだ戻せる」。ここで整えられるかが勝負です。
段階2:臨界(猶予時間が短い)
- 常同行動が強くなる(いつもより“きつい”)
- 声量が上がる/同じ声を出し続ける
- 動きが急に荒くなる/手が出そうになる
- こちらの言葉が入りにくい(処理落ち)
ここで説得・指示・質問を増やすと、ほぼ悪化します(後述の失敗例)。
段階3:崩壊(止めるより守る)
- 他害・自傷・破壊・逃走
- 泣く/叫ぶ/固まる
- 接続が切れたような表情(無反応)
この段階は「学習」ではなく「安全確保」と「回復導線」が主目的になります。
③ 猶予時間の考え方
前兆支援で一番重要なのは、介入の技術よりも猶予時間です。
猶予時間とは、「段階1〜2にいる時間」「戻れる時間」「壊れる前の時間」を指します。
多くの失敗は、猶予時間を“使い切ってから”動くことです。
そして崩れた後に「対応が難しい」と結論づけてしまう。
猶予時間は子どもによって違います。
同じ子でも日によって違います。
だから必要なのは、根性ではなく観察→記録→共有→再現です。
猶予時間を伸ばすコツは単純で、刺激(言葉・音・動き・圧)を足さないこと。
「何があったの?」と聞くより、まず減らして整える。ここが前兆支援の原則です。
④ 生理要因別前兆の違い
前兆は「気持ち」より先に「身体」で始まることが多いです。
特に現場で頻度が高いのは、空腹・排泄・感覚の揺れです。
空腹の前兆(夕方に荒れる・機嫌が突然変わる)
- 眠そうに見える(実は空腹)
- 急に寝転がる/しんどそうに見える
- 細部へのこだわりが増える(位置・ラベル・シール等)
- 年齢が上がると攻撃性が出やすい(他害・自傷・物に当たる)
排泄の前兆(トイレで荒れる・落ち着かない)
- 排便したいのに感覚が分からずソワソワ
- 常同行動が強くなる/神経が過敏になって細部が気になる
- いきむ概念が弱く、トイレでゆっくりが難しい
- 排便後もすぐ落ち着かない(違和感が残ることがある)
- 汗が増える/声が大きくなる/多動が増える
感覚の揺れ(音・光・触覚・温度)
- 音:工事・バイク・バスのプシュー・地下鉄の反響・咳くしゃみ・赤ちゃん(幼児)の泣き声
- 光:日光・商業施設の照明・光刺激への一点集中
- 触覚:頭・脚・足裏の刺激を求める/強い圧が落ち着くことがある
- 温度:汗を嫌う、暑さが苦手、涼しさは平気な子が多い
また、「引っ張って伝える」行動(クレーン現象)は、前兆の局面でも出ます。
本人にとっては要求というより「接続確認」や「状態の調整」であることも多いです。
前兆の段階で“何を疑うか”の引き出しが多いほど、猶予時間を延ばせます。
行動だけを止めに行くと、原因が残り、次の崩れが早まります。
⑤ 失敗事例(新人や親がよくやる失敗)
前兆局面で一番やってはいけないのは、言葉と動きを足すことです。
現場でよく見る失敗を、そのまま列挙します。
- 「どうした?どうした?」と同じ声かけを連呼する
- 名前を連呼する
- 「やめて」「こうして」を連呼する
- 説得しようとする(理由を説明する/分かってもらおうとする)
- 無理やり何かをさせようとする(切り替え強制)
- 不用意に顔や髪を近づける(叩かれる/髪を引っ張られる)
- 身体を持って制御しようとする
- 腕をずっと掴もうとする
- 怒る・叱る・大声を出す
- 慌てる/ソワソワする/バタバタ動く(こちらの緊張が伝播する)
なぜ失敗するか。理由は単純です。
前兆の段階では、本人の処理能力が落ちていて、言葉は増えるほど“負荷”になります。
そして、制御や説得は本人の自由度を奪い、神経をさらに追い詰めます。
⑥ 現場で使う即時介入5手順(成功例の型)
前兆で勝つのは、上手な声かけではありません。
余計な刺激を足さず、最短で整えることです。
ここからは現場の「型」を5手順にします。
手順1:止まる(こちらが落ち着く)
まず支援者(大人)が止まります。
走り回らない。声を重ねない。慌てない。
大人の緊張は、前兆段階の子どもにそのまま伝播します。
手順2:刺激を減らす(言葉を減らす)
声かけはひとこと。もしくは実況中継で短く。
例:「ここで休憩」「静かにする」「いったん止まる」など。
「どうしたの?」は基本的に不要です(負荷が上がりやすい)。
手順3:安全な位置取り(前から入らない)
不用意に顔を近づけない。前に立たない。
必要なら、スッと後ろに回り、身体の向きを変えます。
現場では、バックハグで方向転換が有効な場面があります(怪我を防ぎ、刺激を増やしにくい)。
※ただし、本人の特性・関係性・安全基準により適否が分かれます。無理な固定は悪化します。
手順4:感覚・身体を整える(短時間で効くものを使う)
その子に効く“整え方”を持っているかが差になります。例:
- トントン(一定リズム)
- マッサージ(後頭部/足/足裏など、本人が好む部位)
- 目や耳を塞いで刺激を遮る(必要な場面のみ)
- 温度調整(汗を拭く、上着の調整、室温調整)
「逸らす」テクニック(意識を別へ向ける)は一時しのぎですが、猶予時間を作る上では有効です。
ただし、原因(空腹・排泄・刺激)を放置すると再燃します。
手順5:生理要因を確認する(まず疑う)
前兆が強いときほど、まず疑う順番は生理です。
「トイレ行ってみる」「水分」「空腹」「室温」「音光」から当たります。
理由は、ここが当たると一気に戻ることがあるからです。
補足:前兆時に「やること」を増やしすぎると逆効果になります。
5手順は全部やるではなく、最短で当たりを引くための設計図です。
⑦ 回復期の扱い(ここで再発を減らす)
崩れた後(回復期)にやりがちなのが、すぐ通常運転に戻すことです。
しかし回復期は、神経がまだ不安定で、刺激が入りやすい状態です。
ここで再発すると、「今日はずっと荒れる」になりやすい。
回復期の基本は3つです。
- 刺激を足さない(声・要求・課題)
- 整える(感覚・温度・水分・排泄)
- 成功を小さく作る(「できた」を取り戻す)
回復期の目標は「反省」でも「理解」でもなく、神経の安定化です。
落ち着いた後に、短い成功(座る、飲む、移動する等)を作れれば、次の崩れが減ります。
⑧ 前兆記録フォーマット(共有できる形)
前兆支援は、個人技で終わらせると続きません。
勝てる現場は、前兆を共有できる形にしています。
以下をコピペして、職員・家庭・学校で共有してください。
【前兆ログ】記録テンプレ
■日時: ■場所(学校/送迎車/放課後等デイサービス/家庭/外出先): ■直前の状況(何をしていた): ■前兆(最初に出た変化): - 例:ソワソワ、固まる、視線が泳ぐ、常同行動が強くなる、声量が上がる 等 ■段階(1過敏化 / 2臨界 / 3崩壊): ■猶予時間(前兆→崩れまでの時間): ■推定トリガー: - 音 / 光 / 人混み / 予定変更 / 指示過多 / 叱責 / 退屈 など ■生理要因チェック: - 空腹(直近の食事/間食/好みの波) - 排泄(排便/排尿/違和感/便秘) - 体温・汗(暑さ/服を脱ぎたがる) - 睡眠(前夜/昼寝) ■介入(何をしたか・順番): ■結果(落ち着いた/悪化した/移行した行動): ■回復期の対応(刺激を減らした/整えた/小さな成功を作った 等): ■次回の仮説(次はこうする):
関連:行動を“種類”で切らず、構造で繋ぐ
前兆は、他害の前兆/自傷の前兆というより、強度行動障害の前兆として捉えたほうが再現性が上がります。
ただし、行動の出方はケースで変わるので、必要に応じて以下も参照してください。
最後に:前兆支援は「見抜く」ではなく「整える」
前兆を拾う力は、才能ではありません。
段階で見る → 猶予時間を作る → 生理を疑う → 手順で整える → 記録で再現する
このループで上がります。
そして、前兆が拾えるようになると、現場の景色が変わります。
「急に荒れる子」ではなく、崩れる前にサインを出している子として見えるようになります。
現場でどう実践しているか
本記事で述べた前兆の読み取り、神経段階の見立て、猶予時間の設計、即時介入の5手順は、理論ではなく現場で検証してきた構造です。
声を減らす。慌てない。身体の向きを整える。感覚入力を調整する。排泄や空腹を疑う。
すべて再現性のある方法として積み上げています。
前兆が頻発する子どもは、神経が落ちきらないまま夜を迎えていることがあります。
日中の神経上昇は、睡眠にも影響します。
この内容は、神戸市の放課後等デイサービス・児童発達支援「ふきのこ」でも日常的に実践しています。
※注意:本記事は医療的な診断・治療を目的とするものではありません。便秘や睡眠障害など健康面の懸念が強い場合は、主治医等の専門家と連携してください。
