止める支援から、下げる支援へ。

神戸で児童発達支援・放課後等デイサービスを運営し、強度行動障害の支援に日々向き合う現場実務の視点からまとめた実践ガイドです。本記事では画一的なマニュアルを提示するのではなく、「どこから触るか」という判断の優先順位と、「切り替え(回復)」の設計に焦点を当てて整理します。身体状態・神経状態・環境設計・支援者設計まで含めた長期的視点で解説しています。

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強度行動障害の支援方法|他害・自傷・パニックに「判断」と「切り替え」で対応する

神戸で児童発達支援/放課後等デイサービスふきのこを運営し、
強度行動障害の支援に日々向き合う現場実務の視点から、
「その場の技術」ではなく「判断の型」と「切り替え(回復)」に絞ってまとめました。
本稿は一般化されたマニュアルを提示するものではありません。
現場経験に基づく構造整理であり、
すべての実践は安全確保・法令遵守・個別支援計画に基づいて行われるべきものです。
身体介入を含む内容については、必ず専門研修および組織的合意のもとで行ってください。

重要(安全とリスク低減)
本稿は一般的な情報整理であり、個別ケースの診断・治療・介入指示を行うものではありません。怪我リスクが高い場面や頻回・重篤な自傷他害がある場合は、医療・行政・専門職と連携してください。
身体介入に触れる箇所は「安全介助」の考え方であり、罰・制圧・固定を目的としません。実施は研修・手順・チーム体制・同意・記録を前提に、最小限で検討してください。

安全リスク追記(事故防止のための前提)
走り出し・飛び出し(逸走)、頭打ち・首絞め等の高リスク自傷、噛みつき・投擲等の他害が想定される場合は、対応の「上手さ」よりも先に、環境側で事故確率を下げる必要があります。
例:危険物(硬い玩具/尖った物/ガラス/紐状物)の除去、動線遮断、第三者退避、出口管理、死角の削減、複数名配置、合図と交代ルール、緊急時連絡(119/医療)と事後記録(ヒヤリハット含む)。
怪我・出血・意識変容等がある場合は、振り返りより先に医療判断を優先してください。

強度行動障害の支援方法を探すとき、多くの人はすでに何かに直面しています。
自傷、他害、物壊し、強いパニック。暴れる、叩く、噛む、投げる、走り出す。
「なぜ起きるのか」「どう対応すればいいのか」「落ち着かせる方法はあるのか」「この先どうなるのか」。
家庭(親)も、学校も、放課後等デイサービス(放デイ)などの現場(支援者・職員)も、同じ壁にぶつかります。
不安の中で調べ始めたかもしれません。

本稿は、「これをやれば必ず落ち着く」といった万能マニュアルを提示するものではありません。
なぜなら、強度行動障害は“行動”ではなく、“状態の表出”だからです。
だから支援は、技術ではなく判断になり、そして判断の質は「構造理解」と「切り替え」で決まります。


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第1章|強度行動障害に“正解の支援方法”は存在しない

結論:強度行動障害は「状態の表出」なので、画一マニュアルではなく、状況に応じた判断が支援の核になります。

強度行動障害の支援方法を探すとき、
多くの人はこう思っています。

「正解があるはずだ」
「効果が出るやり方があるはずだ」
「この通りやれば落ち着く方法があるはずだ」

しかし、最初に断言します。

強度行動障害に画一的なマニュアルは存在しません。

これは思想ではありません。
構造の問題です。

なぜマニュアルが成立しないのか

理由は単純です。

強度行動障害は「行動」ではなく、
状態の表出だからです。

そして状態は固定しません。

・その子によって違う
・同じ子でも発達段階で変わる
・同じ子でもその日の神経状態で変わる
・同じ日でも時間帯で変わる

つまり、

再現条件が毎回違う。

再現条件が固定されていない領域に、
マニュアルは成立しません。

これは医療でも同じです。
状態変動の大きい領域では、
プロトコルはあっても“絶対解”は存在しません。

支援は「技術」ではなく「判断」である

強度行動障害の支援は、
何か特別な技を使うことではありません。

止めるか。
距離を取るか。
声をかけるか。
環境を変えるか。
身体介入するか。

その瞬間の神経状態を読み、
最も刺激を増やさない判断をする。

支援とは、

判断の質の問題です。

技術は補助。
本体は判断。

ここを間違えると、
方法探しの迷路に入ります。

では支援方法を学ぶ意味はないのか?

違います。

むしろ逆です。

マニュアルがないからこそ、

引き出しを増やすことに意味がある。

なぜなら、

・その子を楽にできる確率が上がる
・親や支援者の消耗が減る
・判断の選択肢が増える

からです。

重要なのは、
方法を暗記することではありません。

方法が「いつ効くか」「いつ逆効果か」を理解すること。

つまり、

構造理解が前提です。

本稿の立場

本記事では、

「これをやれば落ち着きます」
という書き方はしません。

代わりに、

・なぜ上がるのか
・なぜ止まらないのか
・なぜ悪化するのか
・どこを触れば楽になるのか

を、構造で整理します。

支援方法を並べる前に、
まず“土台”を共有します。

最も重要な前提

強度行動障害は、

わがままではない。
育て方の問題でもない。
性格でもない。

神経と環境の相互作用の結果です。

ここを理解しないまま、
方法をいくら積んでも安定しません。

逆に、

構造が見えると、
同じ行動でも判断が変わります。

それが本稿の目的です。


第2章|支援を歪ませる5つの思い込み

結論:支援を壊すのは「方法不足」よりも、支援者側の思い込みです。ここを壊さないと、方法が武器になります。

支援方法を学ぶ前に、
壊しておくべき前提があります。

ここを壊さない限り、
どんな方法も歪みます。

思い込み①「止めればいい」

強い行動が出たとき、
最初に浮かぶのはこれです。

止める。
抑える。
静かにさせる。

しかし考えてください。

行動は結果です。

原因を残したまま結果だけ止めれば、
圧が内部に残る。

その圧は、

・別の形で出る
・より強く出る
・長期的に固定化する

止めることが支援になるのは、
危険回避の瞬間だけです。

それ以外は、
止めるほど神経を上げる可能性があります。

思い込み②「伝えればわかる」

説明すれば落ち着く。

理屈を伝えれば理解する。

これは定型発達前提の発想です。

神経が上がっている状態では、
前頭葉は機能低下します。

つまり、

説明が届く状態ではない。

言葉が増えるほど、
処理負荷が上がる。

結果、悪化。

伝え方の問題ではなく、
タイミングの問題です。

思い込み③「強く出れば収まる」

一度きつく叱れば減る。

毅然と対応すれば止まる。

短期的に止まることはあります。

でもそれは、

・恐怖による停止
・回避学習
・内圧の蓄積

である可能性が高い。

恐怖は、安定ではない。

神経が上がらなくなったのではなく、
凍っているだけかもしれない。

思い込み④「環境より本人の問題」

「この子が問題だ」

ここに入った瞬間、
支援は固定します。

でも現実は逆です。

環境が変われば、
行動も変わる。

同じ子でも、

・場所が違えば安定する
・人が違えば落ち着く
・時間帯で変わる

これは、
本人固定の問題ではない証拠です。

思い込み⑤「完璧な支援者になれば解決する」

支援者がうまくなれば、
全て解決する。

違います。

強度行動障害は個人の技量で完結しません。

構造問題だからです。

・家庭の疲労
・睡眠不足
・身体状態
・制度的制約
・人員配置
・環境刺激量

すべてが絡む。

だから、支援とは「個人技」ではなく
設計です。

第3章に進む前に

ここまでで壊したのは、

「方法依存思考」です。

ここを壊さないと、
支援方法が“武器”になります。

武器は時に虐待になる。

だから順番が重要です。


第3章|支援はどこから触るのか ― 介入の優先順位

結論:「行動」を止める前に、身体→神経→環境→関わりの順に触る。行動は最後です。

強度行動障害の支援で最も多い失敗は、

「行動そのものから触ること」です。

叩く → 叩かないようにする
投げる → 投げさせないようにする
叫ぶ → 静かにさせる

全部、結果から触っている。

でも構造はこうです。

身体 → 神経 → 環境 → 関わり → 行動

行動は最後に出てくる。

だから逆順に触る。

第1優先|身体状態を疑う

まず見るのは行動ではない。

身体。

・空腹
・血糖変動
・便秘
・残便感
・睡眠不足
・発熱
・感覚過敏疲労

強度行動障害のある子は、
身体の小さな違和感がそのまま行動に出やすい。

本人は言語化できない。

だから出る。

ここを無視して心理に触ると、
支援はズレる。

(参考:空腹と行動の関係排泄と行動問題強度行動障害と睡眠

第2優先|神経レベルを見る

今、上がっているか。
落ちているか。

ここを読む。

上がっているときに説明は入らない。

上がっているときに選択肢提示は負荷。

上がっているときに説得は刺激。

神経が上がっているなら、
触るのは言葉ではない。

刺激量の調整。

・距離
・音量
・光量
・視線
・接触圧

ここを下げる。

第3優先|環境を削る

環境は想像以上にうるさい。

・人の声
・動線の混雑
・視覚刺激
・予定変更
・待機時間

多動や神経過敏が強い子は、
刺激を足すと崩れる。

普通の子が平気な刺激でも、
その子には過多。

だからまず削る。

足すのは後。

第4優先|関わり方を整える

ここで初めて“技術”が出てくる。

・声のトーン
・言葉数
・身体の位置
・接触方法
・介入の圧の分散

身体拘束と安全介助を混同しない。

制圧ではなく、
神経を上げない介助。

ここを履き違えると、
あざができる。

そして信頼が崩れる。

(参考:安全介助の考え方

最後に行動を見る

ここまで整えて、
まだ続くなら行動の機能を考える。

・逃避
・要求
・感覚刺激
・注目
・統制

でもこれを最初にやらない。

なぜなら、

身体と神経が整っていない分析は当たらない。

ここが分岐点

支援方法を探す人の多くは、

「どう止めるか」

を探している。

でも本当に問うべきは、

どこから触るか。

ここが変わると、
支援は激変する。


第4章|場面別・崩れた瞬間の動き方(対応の実践)

結論:崩れた瞬間の対応は「止める」ではなく、神経を上げない/刺激を増やさないが最優先。安全確保はするが、戦わない。

0. 大前提

強度行動障害は
「突然」ではない。

必ず前兆がある。

(前兆構造は別記事で書いている前提でここでは実践に絞る。)

今日は
崩れ始めた瞬間からどう動くか にフォーカスする。

(参考:強度行動障害の前兆構造

① パニック直前(まだ言葉が入るギリギリ)

状態

・目が固まる
・動きが止まる or 不自然に速くなる
・呼吸が浅い
・手の動きが増える
・声量が変わる

やってはいけない

・「どうした?」連呼
・顔を覗き込む
・説得開始
・選択肢を畳みかける

情報は負荷。

動き方
1 距離を一歩引く
2 声量を半分に落とす
3 文を短くする(5語以内)
4 選択は1つだけ

例:

×「どうした?なんで?落ち着こうよ」
○「こっち。座る。」

言葉を減らす。

減らす勇気。

② 他害が始まった瞬間(叩く/蹴る/噛む)

まず現実を見る。

理想論はここでは不要。

叩く。蹴る。噛む。

ステップ1|周囲を守る

優先順位は常に:
1 第三者
2 本人
3 支援者

ここを逆にしない。

ステップ2|神経をこれ以上上げない

やってはいけない

・怒鳴る
・正面から覆いかぶさる
・点で掴む(腕だけ強く握る)
・力比べをする

点で掴むと圧が集中する。

痣ができる。

痣は親の目に触れる。

信頼は一瞬で壊れる。

ステップ3|面で受ける

掴まない。

抱え込まない。

力を流す。

・横から入る
・腕を包む
・体幹で支える
・動線を変える

押さえるのではなく、
流す。

③ 自傷が出たとき

これは怖い。

支援者の心拍も上がる。

でも焦ると悪化する。

まず評価

・痛み回避型か
・感覚刺激型か
・逃避型か

叩く強さを見る。

本気で破壊しているのか、
リズムか。

介入

・硬い場所から離す
・クッションを挟む
・手首ではなく前腕を面で支える
・圧は広く

絶対に指で強く握らない。

(参考:自傷行為の構造

④ 物壊し(投げる/破壊する)

投げる。

破壊する。

まず「物」か「人」かで対応が変わる。

物なら安全確保優先で一旦距離。

人への危険が高い場合は、環境調整を優先したうえで、必要最小限の「安全介助」を検討します。

環境を最短距離で削る。

・投げられる物を減らす
・刺激源を切る
・観客を退ける

人が多いほど上がる。

⑤ 多動暴走(走る/飛び出す)

走る。飛び出す。

止めるのではなく、
進行方向を変える。

真正面から止めない。

横から入る。

体幹を使う。

点で掴まない。

共通原則

行動を止めることは目的ではない。

神経を落とすことが目的。

行動はその結果止まる。

逆にすると、
強度は上がる。


第5章|落ちた後の扱い方で未来が決まる(爆発後の対応)

結論:爆発後は「教育」ではなく回復が最優先。落ちた直後の扱いが、次回の爆発の早さを決めます。

0. なぜ“後”がそんなに重要なのか

荒れている最中は神経が暴走している。

でも
落ちた直後は

・疲労
・恥
・混乱
・空白

が同時にある。

ここで間違えると、

次回もっと早く荒れる。

ここで整えられれば、

次回ワンテンポ遅れる。

この差はデカい。

① 絶対にやってはいけないこと

まず潰す。

❌ 説教
「さっき何したかわかってる?」

入らない。

❌ 原因追及
「なんで叩いたの?」

本人も分かっていない。

❌ 正論
「ダメでしょ」

もう神経は削れている。

❌ 被害説明
「◯◯くん痛かったよ」

罪悪感を足すだけ。

今は教育の時間じゃない。

② 直後の正しい動き

1. 神経の安定を優先

声量を落とす。

距離を近づけすぎない。

でも見守りは外さない。

言葉は短く。

例:
「大丈夫。」
「ここ座ろ。」
「水のむ?」

これでいい。

2. 身体から戻す

荒れた後は
身体がガチガチ。

・足裏圧
・背中ゆっくりトントン
・一定リズム

神経を戻す。

言葉より触覚。

③ 触れない選択もある

すぐ触れない子もいる。

その場合は

・静かな空間
・視界を減らす
・観客を排除

落ちるまで待つ。

「急いで戻す」は失敗する。

④ 10〜30分後が本番

ここでやっと
学習が入る可能性がある。

でも条件がある。

・呼吸安定
・視線が戻る
・筋緊張が下がる

これが揃ってから。

話すなら超短く

「さっきね。痛かった。」
「次どうする?」

長くしない。

絶対に長くしない。

⑤ 何より重要なこと

落ちた後に
普段通りに戻す。

これが一番難しい。

多くの大人は

・怖くなる
・距離を置く
・警戒する

それが本人に伝わる。

「やってしまった自分」
が固定される。

だから

戻す。

普通に戻す。

構造として切り替える。

⑥ 実はここで差が出る

荒れる子は
「落ちた後の扱い」で
固定化するか、
減速するかが決まる。

荒れた=悪い子
にされると、
行動は強化される。

荒れた=神経が上がった
で扱うと、
改善の可能性が残る。

本質

強度行動障害は
“行動の問題”ではない。

“神経の問題”だ。

だから
叱っても減らない。

整えると減る。


第6章|強度行動障害を長期で減らす「設計」+“切り替え”を早める具体

結論:長期で減らすのは「神対応」ではなく設計。そして現場を救うのは、爆発後の切り替え速度(回復速度)です。

まずはっきり言います。

強度行動障害は、
その場の神対応では減りません。

減るのは、

・環境
・構造
・神経のベースライン

これを下げ続けたときです。

「今日うまくいった」は意味がない。

1ヶ月後に荒れの回数が減っているか。

それが本質です。

① 刺激設計|まず減らす

荒れやすい子の特徴は、

「刺激耐性が低い」のではなく、
刺激処理の余白が少ないことです。

つまり、

すでに神経は埋まっている。

そこに、

・大きな声
・蛍光灯
・人の動き
・突然の変更
・急な終了

を入れれば上がる。

だからまずやることは、

足すのではなく、引く。

現場でできる刺激調整

・声量を一段落とす
・正面対峙しない
・照明を弱める
・指示を一つにする
・人を減らす

言葉で止める前に、
空間を落とす。

これだけで荒れ頻度は変わります。

② 予測設計|不安を抜く

予測できないことは恐怖になります。

恐怖は神経を上げます。

上がった神経は荒れます。

つまり、

荒れの多くは
「不安の蓄積」です。

予測設計の具体

・スケジュールの視覚化
・終了5分前予告
・変更は必ず事前提示
・急がせない

ポイントは

急に終わらせない。

支援者側が急ぐと必ず上がる。

③ 成功体験設計|叱責の総量を減らす

強度行動障害のある子は、

1日の中で叱責回数が非常に多い。

・ダメ
・やめて
・危ない
・違う

これが何十回も積み重なれば、

神経は常時緊張モードになります。

成功体験を増やすとは

難易度を下げることではありません。

達成可能な単位を細かくすること。

・30分課題→3分課題
・全部できた→一部できたで評価
・座れた時間を測る

成功の密度を上げると
荒れの総量が下がります。

これは理論ではなく、現場で何度も確認している事実です。

④ 神経を落とす練習を“日常化”する

ここが重要。

荒れたときだけ対応しても意味がない。

落ちる練習を
荒れていない時間にやる。

具体例

・運動後に必ず静の時間
・圧入力を日常化
・活動→静→活動のリズム設計
・帰宅前に刺激を減らす

これを繰り返すと、

神経の“落ちる回路”が育つ。

睡眠の記事と完全につながります。

眠れない子は、
そもそも落ちる練習が足りていないことがある。

(参考:強度行動障害と睡眠


⑤ “切り替え”を早める:疲労を増やさず、回復を早める支援(具体)

切り替えをできるだけ早くしてあげないといけない。
本人が疲れる。
支援者も疲れる。
気持ちの切り替えは早いに越したことない。
そして落ち着いてから根本原因を探って対処する。

この順番が重要です。
「切り替え」は“説得”ではなく、“神経状態の切り替え”です。

「表情の硬直(険しい表情)」「視線の外れ」「筋緊張の上昇」「呼吸の浅さ」
=交感神経優位が強まっているサイン

このサインが出ているとき、言葉は通りにくい。
だから、切り替えの基本は「刺激を増やさない」ことです。

切り替えの核:最短で“落ちる条件”を作る

切り替えを早めるために、支援者がやるべきことはシンプルです。

  • 刺激を減らす(声量・言葉数・視線・距離・光・人)
  • 身体入力で神経を落とす(一定圧/一定リズム)
  • “活動を開始しない”(夜間対応と同じ原則:新しい要求・交渉・説得を始めない)

そして重要なのは、切り替えを「一発の技」にしないこと。
切り替えは、段階の読みです。


切り替えは段階がある:通る段階/通らない段階

目つき・呼吸・表情で段階があり、その途中なら「後方支持誘導」が通用する。
大きく爆発している時は逆効果で、本気で怖がる。触って殴られた・噛まれた経験もある。

ここを、支援者が使える形に落とします。

【段階A】上昇途中(まだ“通る”)

  • 目つきが鋭くなり始める(ただし固定ではない)
  • 呼吸が浅くなるが、完全に止まっていない
  • 表情が硬いが、まだ“戻りそうな揺らぎ”がある
  • 視線が完全には外れていない(ちらっと合うことがある)
  • 声が消えきっていない(言葉ではないが、反応が残る)

この段階は、切り替えを早めやすい。
理由は単純で、まだ神経が“固定化”していないからです。

【段階B】固定(通りにくい/触るほど悪化しやすい)

  • 視線が合わない(“こちらにいない”状態)
  • 表情の硬直が強い
  • 呼吸が荒い・浅い・止まりがち
  • 声が出なくなる(言葉ではなく、反応そのものが消える)
  • 行動が静かな爆発として出ることがある(大声ではなく、静かに攻撃が出る)

この段階は、切り替えを“急がせるほど遅くなる”ゾーンです。
ここで支援者が慌てる・声を上げる・言葉を増やすと、逆に固定が強くなる。

【段階C】回復(戻り始めるサイン)

  • 目が合うようになる(“落ちている証拠”)
  • 表情が戻り始める
  • 声が変わる/小さな声が出る(大声ではない)
  • 呼吸が整ってくる

この段階に入ったら、切り替えは成功し始めています。
ここでやることは、追い打ちではなく、減速の維持です。


後方支持誘導を“切り替えの技術”として使う条件

「後方支持誘導」

と呼びます。

※重要:ここで扱うのは危険回避のための安全介助としての考え方です。罰・制圧・固定を目的としない。
施設や家庭の方針、研修、記録、同意、法令・ガイドライン等の前提のもとで、安全と尊厳を最優先に検討してください。
(参考:安全介助の考え方

後方支持誘導が“通る”条件(あなたの経験を明文化)

  • 段階A(上昇途中)であること(固定していない)
  • 無理やりではなく“誘導”として入る(力比べにしない)
  • 点で掴まず、面で支える(脇〜体幹)
  • 支援者が慌てていない(慌ては確実に伝わる)
  • 言葉は短く、低く、少なく(増やさない)
  • 支援者が小柄でも有効なことがある(腰を落とし、体幹で支える)
  • 基本は1人で成立することがある(ただし安全と環境次第。単独で無理をしない)
  • 目的は「止める」ではなく環境を切り替える(刺激源を切る)こと

後方支持誘導が“通らない/逆効果になりやすい”条件(深掘り)

  • 段階B(固定)である
  • 大きく爆発している最中
  • 触られること自体が恐怖になっている(本気で怖がる)
  • 支援者が焦っている/声が高い/声が大きい/言葉が多い
  • 本人の視線が完全に外れている(“こちらにいない”)

切り替えの具体例(経験を“判断の型”にする)

① 身体から落とす(切り替えを早める王道)

  • トントンした(一定リズム)
  • マッサージした(一定圧)
  • 抱きしめた(ただし段階と恐怖の有無を読む)
  • お風呂でシャワーを浴びさせた(強い刺激になる子もいるので慎重に)

② 刺激を減らして“逸脱させる”(神経の固定を外す)

  • 無視した(=会話を増やさない/観客を作らない)
  • 安全を確保したうえで“出し切る時間”を作った(危険物を除去し、周囲を離し、見守りを外さず、短時間で区切る)
  • 抱えてその場から離れた(環境刺激の切断)
  • 後方支持誘導で場所を変えた/方向転換した(段階A限定)

③ 代替・好子で“方向を作る”(ただし万能ではない)

  • 好きなアイテムを手渡した
  • スクイーズが好きな子は多い
  • 代替えのものを用意した
  • ハイチュウやキャラメルなどの軽食を与えた(血糖・依存の設計を前提に)

切り替えは「説得」ではなく、神経状態を回復に入れるための操作です。回復後に原因(身体・見通し・環境)へ戻って調整します。

ただし「終わったあと」に根本原因を見る。ここまでセットで支援です。

それでも多くの場合これらはあくまでも誤魔化し、逸らしただけ、問題はその後どうするか。対処療法と根治療法の違いだと思う。


逆効果だった場面(禁止リストとして明文化)

  • 大きな声で反応した
  • 慌てた
  • 怒った
  • やめなさいと言った
  • 説得しようとした
  • どうした?と連呼した
  • 名前を連呼した
  • ちゃんとしなさいと言った
  • 高い声を出した
  • 叱った
  • こうしたいの?ああしたいの?とハズレのことを言った
  • とにかく大きい声、高い声、声かけが多いのは逆効果が多い
  • 慌てた場合は大抵逆効果。確実に伝わる。感がとても鋭い

見通しがないことが原因で爆発する

多くの場合爆発は見通しのなさが原因なことが多い。
例えばある程度大きくなってくると(これは経験則です)、空腹でも前兆を捉えて、支援者や親に伝わっていること。
今から買いに行くこと、今作っていること、食べに行くことがわかれば待つことができることが多い。
逆になぜ爆発しているのにか親や支援者が気づいていないことを理解した時さらに爆発はエスカレートする傾向にある。

ここは「しつけ」ではありません。
見通しが立たない不安が増え、神経が上がり、結果として行動が出る。
だから、切り替えの前にも、設計としても、見通しは最強の予防になります。

(参考:空腹と行動の関係排泄と行動問題


⑥ 「個別」であるという事実

ここで前提に戻ります。

マニュアルは存在しない。

その子によって違う。
その日によって違う。
発達段階で変わる。

だから支援方法の画一的マニュアルを探すのはナンセンスです。

しかし、

原理を知っているかどうかは決定的に違う。

刺激を減らす
予測を入れる
成功を増やす
神経を落とす
切り替えを早める(段階を読む)

この軸を持っている支援者と、
持っていない支援者では、
3年後の差は大きい。


第7章|支援者が崩れると、すべて崩れる

結論:強度行動障害の現場は、子どもだけでなく支援者の神経設計が必要。支援者が崩れると、家庭も現場も崩れます。

強度行動障害の支援で一番壊れやすいのは、
子どもではありません。

支援者です。

① 支援は神経のぶつかり合い

荒れが起きるとき、
子どもは交感神経が上がっています。

そのとき支援者も上がる。

・焦る
・怖い
・止めなければ
・周囲の目が気になる
・怪我させたらどうしよう

この瞬間、
支援者も戦闘モードに入ります。

戦闘モード同士は落ちません。

ぶつかります。

② 支援者の“見えない消耗”

強度行動障害の現場は、

・予測不能
・事故リスク
・保護者対応
・記録
・会議
・人手不足

常に緊張が続く環境です。

さらに、

「自分の対応が悪かったのかもしれない」

という自己否定。

これが蓄積すると何が起きるか。

・怒鳴る頻度が増える
・腕を強く掴む
・囲い込みになる
・短気になる
・無力感

そして離職。

③ 支援者の神経設計も必要

子どもの神経だけでなく、
支援者の神経設計も必要です。

現場で必要なこと

・1人で抱えない構造
・介入判断を共有する
・失敗を責めない空気
・振り返り時間の確保
・交代できる体制

支援は個人技では続きません。

④ 支援者が落ちているときのサイン

・ため息が増える
・声量が上がる
・子どもを“敵”に感じる
・帰宅後ぐったりする
・休日も考えてしまう

これは限界サインです。

ここを無視すると、
身体拘束に近い行為が自然に増える。

悪意ではない。

神経の余白がなくなるからです。

⑤ 強度行動障害は「チームの支援」

全国の記事にするなら、
ここを明確に書く必要があります。

強度行動障害の支援は、

優秀な一人ではなく、
設計されたチームでやるものです。

⑥ 親もまた支援者である

親も同じです。

睡眠不足。
不安。
周囲の理解不足。
将来の恐怖。

親が壊れかけているのに、
子どもだけを整えようとしても無理です。

だから

・親の睡眠を確保する
・相談できる場所を持つ
・「今日生きていれば合格」と思う

これも支援です。

⑦ 支援とは、神経の総量管理

子ども
支援者

全員の神経の総量。

これを下げ続ける設計が支援です。

誰か一人が限界なら崩れます。


第8章|「減らす」とは何か ― 強度行動障害の本当のゴール

結論:ゴールは「ゼロ」ではなく、回復が早くなる/戻れる力が育つこと。頻度より回復速度です。

強度行動障害を「なくす」。

その言葉は魅力的です。

でも、現実の支援はそう単純ではありません。

① 行動は消すものではない

自傷も他害も、
突然湧いてくる悪意ではありません。

・過負荷
・不安
・感覚過敏
・伝わらない要求
・睡眠不足
・血糖変動

それらの結果としての行動です。

結果だけ消そうとすれば、
別の形で出ます。

叩くのを止めれば、
噛む。

噛むのを止めれば、
壁を蹴る。

壁を止めれば、
自分に向く。

だから本質は、

行動を減らすことではない。
負荷を減らすこと。

② 「減る」とは頻度ではない

よくある誤解はこれです。

・回数が減れば成功
・静かになれば改善

違います。

本当の改善は、

・立ち上がる前に気づける
・前兆で落とせる
・回復が早い
・本人が戻れる

この「回復速度」です。

ゼロにする支援は幻想です。

回復を早める支援が現実です。

③ 本人の中に“戻る力”を作る

強度行動障害の支援のゴールは、

止め続けることではありません。

戻れる神経回路を作ること。

・一定圧で落ちる
・静かな空間で戻る
・言葉が少ない方が安定する
・予測できると安心する

それを身体が覚える。

これが神経学習です。

④ 支援が成功しているサイン

本当に進んでいる現場では、

・荒れはゼロではない
・でも爆発は減る
・怪我は減る
・回復が早い
・自傷が弱くなる

そして一番大事なのは、

周囲の恐怖が減ること。

恐怖が減ると圧が減る。

圧が減ると神経が落ちる。

この循環ができれば、
支援は前に進んでいます。

⑤ 「完全解決」は存在しない

全国で検索している人に、
ここは正直に伝えなければいけません。

強度行動障害は、

年齢とともに変わることが多い。

でも消える保証はない。

形が変わることもある。

だから、

「治るかどうか」ではなく、

どう共存するか。

どう設計するか。

そこに焦点を移す。

⑥ 強度行動障害は“絶望”ではない

荒れている瞬間だけを見れば絶望です。

でも構造で見ると、必ず因子があります。

因子があるなら、

変数は動かせます。

全部は無理でも、
一つは動く。

一つ動けば、全体が変わる。

⑦ このページを読んでいるあなたへ

今、限界かもしれません。

・眠れない
・怪我が怖い
・将来が見えない
・誰も分かってくれない

でも覚えておいてほしい。

強度行動障害は「人格」ではない。

神経と環境の相互作用です。

あなたが悪いわけではない。


FAQ|よくある質問(親・学校・放デイ・現場の「対応」)

Q1. 「叱る」「やめなさい」は逆効果ですか?

逆効果になる場面が多いです。特に神経が上がっているときは、言葉が増えるほど処理負荷が上がり、固定(段階B)を強めやすい。
叱るかどうかより、まず「いま言葉が入る状態か」を読む。入らないなら刺激を減らし、切り替え(回復)を優先します。

Q2. 暴れる/叩く/噛むとき、まず何から守るべき?

優先順位は常に「第三者→本人→支援者」。ここを逆にすると事故が増えます。
そのうえで“神経をこれ以上上げない”動き(声量・距離・人数・視線)に切り替えます。

Q3. 爆発後、すぐに振り返り(原因追及)した方がいい?

多くの場合、すぐは逆効果です。落ちた直後は疲労・混乱・空白が強く、説教や原因追及は固定化を招きます。
呼吸・視線・筋緊張が戻ってから(10〜30分後以降)短く扱うのが基本です。

Q4. 「切り替え」はどうすれば早くなりますか?

切り替えは説得ではなく神経状態の切り替えです。
刺激を減らし(声量・言葉数・視線・距離・人・光)、身体入力(一定圧・一定リズム)で“落ちる条件”を作る。
さらに段階(A/B/C)を読み、通るときだけ「後方支持誘導」などを使う。通らない段階で触ると遅くなります。

Q5. 家庭(親)と現場(支援者・学校)の連携で、まず揃えるべきことは?

「前兆のサイン」「逆効果リスト」「落ちた後の扱い(普段通りに戻す)」の3つを揃えるだけで事故が減ります。
支援の一致は、方法の一致ではなく「判断の軸」の一致です。

Q6. 空腹・排泄・睡眠は本当にそんなに影響しますか?

影響します。本人が言語化できない場合、小さな身体不調がそのまま行動に出やすい。
行動分析の前に身体の変数を疑うのが優先です。
(参考:空腹と行動の関係排泄と行動問題強度行動障害と睡眠


最終結論

強度行動障害は

止める問題ではない。
叱る問題でもない。
我慢の問題でもない。

設計の問題です。

神経の設計。
環境の設計。
支援者の設計。
チームの設計。

そして、

焦らないことが最大の支援。

※安全に関する重要事項:身体への接触・誘導・介入は必ず法令および事業所の安全規定に基づき、
研修を受けた職員のみが、最小限の範囲で実施してください。
拘束を目的とした介入は許されません。
常に安全・尊厳・最小侵襲原則を優先してください。