触れることが危険なのではない。 構造を知らずに触れることが危険なのだ。

強度行動障害に近い状態での身体介入は、力ではなく構造で行う。
身体拘束との決定的な違い、痣が残る理由、現場で起きがちな危険な失敗、安全介助の原則(ボディメカニクス)を整理。
支援者と保護者双方に必要な“整える触れ方”の実践的理解を解説。

autism

安全介助とボディメカニクス|身体拘束とは違う“整える触れ方”

強度行動障害に近い状態で荒れが起きたとき、
「触れるのが怖い」と感じる支援者は少なくありません。

しかし現場で本当に危険なのは、
触れることではなく、
構造を知らずに触れることです。

恐怖は力を生みます。
焦りは圧を生みます。
そしてその圧は、子どもの身体に痕として残ります。


身体拘束と安全介助は違う

まず整理します

■ 身体拘束とは

  • 本人の自由を制限することを目的とする
  • 動けない状態を作ることが主目的になる
  • 本人の意思よりも「制止」を優先する
  • 落ち着かせるためではなく「止めるため」に力を使う
  • 解除の基準が曖昧になりやすい

身体拘束は、「行動を止めること」がゴールになります。

■ 安全介助(身体介入)とは

  • 怪我防止・転倒防止・衝突回避を目的とする
  • 神経興奮を落とすための一時的補助
  • 制止ではなく方向転換を行う
  • 短時間で解除する前提で行う
  • 本人の呼吸・表情・筋緊張を観察しながら圧を調整する

安全介助は「安定させること」がゴールです。

制圧はしません。

呼吸を奪いません。

恐怖を与えません。

力で勝ちません。

状態を落としたら、すぐ解除します。

ここが決定的な違いです。

押さえつけることと、
整えることは違います。

制圧はしません。
安定させます。

自由を奪うのではなく、
怪我を防ぎ、
神経を落とすための補助。

それが安全介助です。

身体拘束は、
「動きを封じること」が目的になります。

安全介助は、
「怪我を防ぎ、状態を落とすこと」が目的です。

目的が違えば、
方法も違います。

「止める」が目的なら拘束、「守って落とす」が目的なら安全介助。


親として見た、消えない光景

子どもが帰宅した夜、
お風呂に入れたとき。

腕や手首に、
いくつもの指の跡が残っているのを見たことがあります。

点で掴まれた跡。

強く握られた跡。

それを見たときの、
あの胸の感覚。

怒りよりも先に、
悲しさが来ました。

きっと悪意はなかった。

でも、知らなかった。

怖かったのだと思います。

怖さが、力になる。

その力が、
子どもの身体に残る。

これが現実です。

だからこそ、
触れることをやめるのではなく、
触れ方を変えなければいけません。


現場でよくある危険な失敗(本当に多い)

  • 「どうした?どうした?」と連呼する
  • 名前を何度も呼び続ける
  • 正面から顔を近づける
  • 腕を強く掴む
  • 身体で押さえ込む
  • 怒鳴る・焦る
  • 複数人で囲む

なぜこれが危険なのか(構造で理解する)

① 連呼は刺激になる

前兆段階では聴覚は過敏です。
言葉は情報ではなく刺激になります。
同じ言葉を何度も浴びせると、
神経のボリュームはさらに上がります。

② 名前の連呼は圧迫になる

本人の内部では「責められている」「追われている」に変換されることがあります。

③ 正面対峙は闘争反応を引き出す

正面に立つ。
見下ろす。
距離が近い。
顔が迫る。

これは無意識に闘争本能を刺激します。
叩かれるのは防衛反応です。

④ 点で掴むと痣になる

手首を握る。
指に力が入る。

恐怖が握力を強くします。

本人が動けば圧は集中します。
結果、皮下出血や赤みが残る。

⑤ 押さえ込みは力比べになる

子どもは全力で抵抗します。

支援者も本能的に力を入れます。

これは神経を落とす行為ではありません。
興奮を上げる行為です。

⑥ 囲むと逃げ場がなくなる

複数人で視界を塞ぐ。
背後を詰める。

これは生物としての恐怖を上げます。
パニックは加速します。

これらは悪意ではなく、
焦りと恐怖から起きます。

しかし結果は重い。

痣が残れば、
保護者の心は崩れます。


痣が出るのはなぜか(誤解を生まないために)

強度行動障害に近い状態では、
支援者側にも緊張が走ります。

緊張は筋緊張を生みます。

筋緊張は把持力を強くします。

そして点で掴めば、
圧は一点に集中します。

動けば動くほど圧は強まり、
痕が残る。

これは「虐待の意思」がなくても起こり得ます。

だからこそ必要なのは、
ボディメカニクスの理解です。


安全介助の原則(ボディメカニクス)

① 点で掴まない(面で受ける)

手首を握らない。
前腕・肩・体幹を面で受ける。

腕力ではなく、
体重移動を使う。

② 正面に立たない

斜め後方へ回る。
視線を合わせすぎない。

対峙しないことが最優先です。

③ 背後からの体幹安定介助(制圧ではない)

後方から肩〜体幹に腕を回す。
胸部は圧迫しない。

目的は制止ではなく、
衝突回避と転倒予防です。

方向を変える。
力を流す。

④ 足を使った一体誘導(条件付き)

支援者の足の甲に児童の足を軽く乗せる、
または児童の足の上に支援者の足を重ねる。

二人羽織のように一体化して歩く。

力比べが起こりにくい。
楽しさに変わることもあります。

※滑る床では行わない
※転倒リスクがある場面では行わない

⑤ 触覚入力で落とす

  • 後頭部への一定圧
  • 足裏刺激
  • 一定リズムのトントン
  • 腹部への軽い接触(排泄違和感が疑われる場合)

触覚は神経を落とす方向に働きます。


触れない方が安全、ではない

触れない。
距離を取る。

それで落ちるなら良い。

しかし、

  • 飛び出し
  • 転倒
  • 自傷悪化
  • 他害拡大

につながることもあります。

触れるかどうかではなく、
どう触れるか


状態確認は必須

身体介入は、
状態を誤らないための補助です。


最後に

身体介入は、
怖さで行えば危険になります。

構造で行えば、
安定になります。

支援者の身体は武器ではありません。

安心を作る道具です。

触れることを恐れる必要はありません。

恐れるべきなのは、
知らないまま触れることです。


実践の場

この安全介助とボディメカニクスの考え方は、
神戸市の放課後等デイサービス・児童発達支援
ふきのこでも実践しています。

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