決めなければいけないのに、決められなくなった朝。

声かけや説明が通じなくなった場面で、
親の中で何が起きているのかを書いています。
解決策ではなく、「こうなってしまう理由」を
そのまま言葉にした章です。

child

……もう限界

(声をかけても、説明しても、何も通らなくなった場面)


朝、時計を見る。
もう遅い。というか、遅くなるのは分かっていた。
分かっていたのに、こうなる。

服。靴下。バッグ。連絡帳。水筒。
兄弟の準備。自分の準備。仕事の連絡。ゴミ出し。
「あと3分で出たい」と思った瞬間に、何かが止まる。

子どもが止まる。
動かない。固まる。視線がどこかに飛ぶ。

その瞬間、親の頭に最初に浮かぶ言葉が、これ。

……もう無理かも。

口に出しちゃいけないって分かっている。
「無理」なんて思っちゃいけないって分かっている。
でも、浮かぶ。
考えるより先に、浮かぶ。

1. 親はまず「正しく」やろうとする

最初は、ちゃんとやる。
優しく声をかける。見通しを伝える。選択肢を出す。
叱らない。否定しない。褒めて伸ばす。落ち着いて対応する。

支援学校や放課後等デイ、面談や連絡帳でも、そう教わる。
「こう声をかけるといいですよ」
「否定しないで、できたところを拾ってください」
「一貫性が大事です」

うん、分かってる。
親だって、分かってる。
それが良いってことも、意味も、ちゃんと理解している。

でも、生活は待ってくれない。
朝は時間がない。仕事がある。兄弟がいる。家事がある。
体力がもう残っていない日もある。

「分かっている」だけでは、毎回はできない。

2. 「伝え方」の問題じゃない日がある

昨日は通じたのに、今日は通じない。
いつもの言い方が、まるで届かない。

だから親は足す。
もっと分かりやすく言い換える。もう一回言う。順番を変える。褒める。待つ。

「正しい」ことを、必死で積み上げる。

ここで、親はひとつの罠に入る。
うまくいかないのは、説明が足りないせいだ。
そう思うほど、声かけも、情報も、関わりも増えていく。

3. 何も通らなくなる瞬間

「行くよ」
「靴下」
「今はこれ」
「あとでね」
「大丈夫」
「落ち着いて」

親は必死だ。
生活を回すために必死だし、子どもを守るためにも必死だ。

でも、子ども側が「受け取れる状態」ではない日がある。

さらにきついのは、子どもがそれを言葉で伝えられないこと。
「待って」とも言えない。
「今、無理」とも言えない。

代わりに起きるのは、こういうこと。
固まる/逃げる/叫ぶ/叩く/投げる/泣く/笑う(これが一番しんどい)

親の頭の中は、こんな独り言で埋まる。
……なんで?
……さっきまでできてたのに。
……今じゃなくない?
……お願いだから、今日はやめて。

……もう無理かも。

4. 親が一番困っているのは「子どもの状態」だけじゃない

ここは、きれいに言えない。だからそのまま書く。
親が苦しいのは、子どもの状態だけじゃない。

  • 出勤に遅れる
  • 学校や園に連絡しなければならない
  • 周囲の視線が刺さる
  • 予定が全部崩れる
  • 兄弟が荒れる
  • 自分の体力が尽きる

子どもを理解する以前に、生活が回らない。

だから、親はこう思ってしまう。
「とにかく、この状況を終わらせたい」

「落ち着かせたい」よりも、
「終わらせたい」。

その本音を持ってしまうこと自体は、責めるものじゃない。
生活しているから、そうなる。

5. 親は「正解」を取りに行く。でも正解は増えていく

やってはいけないことも知っている。
怒鳴らない。叩かない。追い詰めない。無理やり動かさない。

じゃあ、どうするのか。
ここで、親の頭は「正解探し」に切り替わる。

声かけ?/待つ?/抱っこ?/環境調整?/気をそらす?/好きなもの?/休ませる?
今日は行かない?/明日は?/これって甘やかし?/支援の言い方は?/連絡帳には何て書く?

正解が増えるほど、迷いが増える。
迷いが増えるほど、声かけが増える。
そして、最悪の状態が完成する。

親の中で、判断が渋滞する。

6. 荒れているように見えて、実は「親が詰んでいる」

親の中にあるのは、怒りだけじゃない。
恐怖、焦り、罪悪感、申し訳なさ、失敗感、自分への嫌悪。
「私が悪いのかな」という疑い。

それでも親は「ちゃんとした親でいたい」から、取り繕う。

「大丈夫だよ」
「落ち着こう」
「あと少し」

でも内側では、こんな小声が止まらない。
……私だって限界。
……今日だけはやめて。
……どうしたらいい。
……もう無理。

7. ここで一度だけ、問いを置く

この章では、解決策を並べない。
並べた瞬間に、親の「正解探し」がまた増えるから。

いま、いちばん困っているのは誰ですか。

子どもですか。親ですか。両方ですか。

いま、背負っているのは誰ですか。

落ち着かせる責任。遅刻させない責任。周りに迷惑をかけない責任。
子どもを守る責任。次の予定を回す責任。
それを、親ひとりで背負っていませんか。

8. 「親が悪い」で終わらせない

……もう無理かも。
その言葉が浮かぶとき、親として何かが足りなかったわけじゃない。


判断を一人で引き受け続ける構造が、限界に来ていただけです。

次の章では、
「正しくやろうとするほど空回りする」理由を扱います。
頑張るほど悪化する瞬間がある。

それは、努力不足ではありません。