
強度行動障害と空腹|なぜ夕方に荒れるのか?見逃されやすい“生理的要因”を整理する
空腹は、もっとも見落とされやすい要因の一つです。
行動が荒れたとき、
「わがまま」「反抗」「特性」と解釈されがちですが、
本当にそうでしょうか。
空腹は“お腹がすいた”とは出ないことがあります。
特に、状態が強いほど、内的状態を言葉で伝えることが難しく、
別の形で行動として表出します。
このページでは、放課後等デイサービスの現場で実際に見てきた視点で、
空腹と行動の関係を整理します。
1|空腹は「お腹がすいた」とは言えない
特性が強いほど、
「空腹」という内的状態を言語化できません。
未発達であればあるほど、空腹は別の形で出ます。
- 眠そうな仕草をする
- しんどそうに寝転がる
- 物の位置が気になり、直し続ける
- ラベルの位置が気になり、固着する
- ものに貼られているシールが気になり、剥がし続ける
- 細かなこだわりが増し、行動が不安定になる
一見、関係なさそうな行動ですが、
背景にエネルギー不足(血糖の低下)があることがあります。
空腹は「食べたい」とは出ません。
行動として出ます。
2|なぜ、原因が分からなかったのか(放課後デイの視点)
学校へ迎えに行く。
定期的に、機嫌が極端に悪い日がある。
- 目が合わない
- 物に当たる
- 些細な刺激で爆発する
- 車に乗らない
家庭と情報共有しても、特に大きな変化はない。
学校に確認しても、トラブルはないと言う。
原因が見えない。
行動だけを見ると“情緒不安定”に見える。
でも違いました。
そこで私たちは、行動を「その場の問題」として扱わず、
周辺情報を分解して突き合わせることにしました。
- その日の給食内容
- 食事量(完食かどうかではなく、何をどれだけ摂取したか)
- 水分量
- 食べる速度
- 食べられなかった理由(固い・匂い・気分・体調など)
聞いていくと見えてきた。
その子は確かに、パンをあまり食べない子だった。
給食が「食べた扱い」でも、主食のパンはほぼ残していた日があった。
麺の日は安定。
白米の日も比較的落ち着く。
パンの日だけ荒れやすい。
午後の荒れは、態度でも、学校でも、家庭でもなく、
エネルギー不足(血糖低下)だった。
答えは、行動の中ではなく、生活の中にありました。
3|空腹はなぜ見逃されるのか(ヒントは“周辺”にしか出ない)
空腹は直接的なサインを出しません。
ヒントは、行動の周辺に出ます。
- 荒れる曜日が決まっている
- 特定の給食メニューの日に一致する
- 夕方だけ崩れる
- おやつ後は安定する
- 学校では無事だが、迎えから崩れる
行動だけを見ていると、見つかりません。
どこにヒントがあるか分からない。
だからこそ、家庭・学校・施設の視点をつなげて情報共有し、細部を分析する必要があります。
空腹は、ここを外すと永遠に“原因不明”になります。
4|年齢が上がるほど、空腹は攻撃性に変わりやすい
年齢が上がると、空腹は攻撃性として出ることがあります。
- 他害
- 自傷
- 物に当たる
これは性格ではありません。
血糖が低下すると、
- 刺激耐性が下がる
- 感情制御が不安定になる
- 衝動性が増す
生理的な反応として起きやすい。
ここを行動問題としてだけ処理すると、支援は噛み合いません。
5|強い状態像ほど「食のブーム」が起きやすい
強度行動障害に近い状態では、
その時期ごとに食のブームが起きることがあります。
- 同じものを続けて食べる
- 急に完全拒否する
- 期間限定で偏る
これを「わがまま」「気分」と捉えると崩れます。
現場感覚としては、ブームは嗜好というより、
神経の安定ポイント(安全食)が周期的に変化していることがあります。
匂い、食感、温度、固さ。
感覚処理の揺れで“受け付ける条件”が変わる。
だから重要なのは、正しさより、
今のその子にとって何が入るのかを把握し続けることです。
6|空腹は「強化が効きやすい」ように見えることがある(ただし扱いは慎重に)
空腹時は、刺激処理が単純化して
一時的に集中が高まるように見える場面があります。
空腹が神経を研ぎ澄ませる一面がある、という感覚は現場でも起き得ます。
ただし、ここは誤解されやすいポイントです。
空腹は“報酬”ではなく、“生理的欲求”です。
意図的に空腹を操作して指示を通す、という発想は取りません。
大切なのは、空腹を利用することではなく、
空腹という状態を理解し、崩れにくい設計をつくることです。
7|待つ力の育て方(“我慢”ではなく“構造”)
成長とともに、
「これが今ほしい」「今すぐ食べたい」という欲求が強まることがあります。
ここを全て即時充足すると、衝動は強化されます。
ではどうするか。ポイントは段階です。
- まず満たす(神経を安定させる)
- 安定状態で“少し待つ”経験を入れる
- 待てたら肯定し、成功として残す
- 見通しを構造化する(タイマー・写真カード・手順提示)
重要なのは、
空腹で限界のときに我慢を教えないことです。
神経が整っているときに、小さな成功体験として積む。
「我慢しなさい」は抽象です。
「ここまで待てば必ず満たされる」は構造です。
この違いが、崩れにくさを作ります。
8|空腹が満たされると、行動は静かに変わる
空腹が満たされると、変化は分かりやすく出ることがあります。
- 指示が入る
- 機嫌が良くなる
- 柔軟になる
- 集中できる
ただし、その安定時間は子どもによって違います。
30分なのか、2時間なのか。
ここも観察と記録が必要です。
空腹は、もっとも単純で、もっとも見逃されやすい。
しかし見抜ければ、支援の景色が変わります。
まとめ|空腹は“行動の原因”ではなく“崩れやすさの土台”
荒れているのは、性格ではありません。
わがままでもありません。
指示が入らないのは、反抗ではありません。
燃料が足りないだけかもしれない。
だから、止めるのではなく、整える。
怒るのではなく、構造で見る。
空腹は、最も基本で、最も見逃されやすく、最も影響が大きい要素です。
ここを整えるだけで、未来は静かに変わり始めます。
関連:
→ 他害のページへ
→ 自傷のページへ
→ 三つの視点で整理する(親・現場・制度)
→ 強度行動障害を知る(全体)
