トイレが嫌なのではない。 「出したいけど、分からない」ことが荒れにつながる。

便意が分からない、いきむ概念が弱い、排便後も落ち着かない——。
強度行動障害の背景にある「排泄の違和感」を、現場視点で解説します。

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排泄と行動問題|「また荒れた」の前に、身体のサインが出ている

他害、自傷、破壊、大声、パニック。強度行動障害に近い状態の支援では、行動そのものが目立ちます。
けれど現場で何度も確認できるのは、行動が“突然”起きているケースは実は少ない、ということです。
行動の前に、必ず何かが崩れている。睡眠、空腹、痛み、感覚過負荷、そして排泄です。
排泄は「生活スキル」ではありません。神経状態を上下させる、生理的な調整装置です。ここを外すと、支援はいつまでも「止める」方向に引っ張られます。

排便をしたい。でも“便意”として分からない

私たちは、便意→移動→着座→いきむ→出す→スッキリ、を当然のように処理できます。
しかし強い特性がある子どもほど、この流れが分解できません。

  • 便意(内受容感覚)が曖昧で、違和感だけが強い
  • 「我慢」「順番」「切り替え」が難しい
  • 姿勢保持や呼吸調整が不安定で、腹圧が入らない
  • 出し切った感覚が弱く、残便感・肛門違和感が残る

本人にとっては「出したい」ではなく、何かが気持ち悪い、ただそれだけのことがあります。
この曖昧な不快が、こだわり・多動・大声・他害として“別の形”で噴き出します。


排便前に出やすい前兆:現場で見える“身体のサイン”

排便が関係しているとき、行動だけを見ていると外します。見るべきは“質の変化”です。

  • :首・背中・額が湿る(理由がないのに発汗)
  • 多動の荒さ:動きが速いだけでなく、ぶつかる・落ち着き所を探す
  • 常同行動の強化:いつもより強く、長く、止まりにくい
  • 声量の上昇:大声が“続く”。止められない
  • 細部への固着:物の位置、ラベル、シール、糸くずなどに執着する
  • 表情・呼吸:眉間が固い、呼吸が浅い、視線が泳ぐ

ここで叱る・制止する・説明を増やすと、情報量と緊張が上がり、さらに崩れます。
“問題行動”を止めるのではなく、身体の不快を特定して下げる。それが最短です。


排尿と排便は別物:排便が難しい理由

排尿は比較的成立しやすい。一方で排便は、姿勢・呼吸・腹圧の協調が必要です。
多動がある子に「座ってゆっくりいきんで」は、現実的に無理が出ます。1回いきんで終わる、立ち上がる、逃げる。

すると「まだ残っている」「違和感が消えない」状態になりやすい。結果として、排便後もしばらく神経が落ちません。
だから排便=トイレ内で完結と考えるほど、詰みます。トイレ外で準備と回復を設計する必要があります。


便秘・残便感・肛門違和感:見逃されやすい“長引く不快”

便秘傾向の子は多く、整腸剤や下剤を使っているケースも珍しくありません。
便秘が続くと、便意がさらに鈍くなり、不快だけが長く残ります。交感神経が上がりやすくなり、イライラ・攻撃性・自傷が増えることがあります。

ここで大事なのは、薬の是非ではなく、「出たかどうか」だけで終わらせないことです。

  • 出た直後に落ちるか(落ちないなら残便感の可能性)
  • 拭き取り刺激が負荷になっていないか
  • 腹部の張り・姿勢の固さが残っていないか

“排便=終了”ではなく、排便後の回復時間まで含めて支援設計です。


排便前に食べ物を欲しがる:単なる要求ではない可能性

排便前に食べ物を要求する子がいます。これを「ご褒美要求」と断定しないでください。
腸の圧や違和感を、上から押し出すように調整している可能性があります。

もちろん全てが生理だけではありません。だからこそ、前兆・排便・要求・落ち着きをセットでログ化し、パターンとして判断します。


放課後等デイの視点:実例(“原因が分からない”から始まる)

学校へ迎えに行くと、定期的に強く崩れる日がある。家庭と共有しても大きな変化はない。睡眠も特に崩れていない。
しかし現場では、汗と動きの荒さが共通していました。「今日は刺激を減らして早く落とそう」と判断しても、なぜか落ちない。

そこで、排便の有無だけでなく、前兆(汗・声量・常同行動)を固定フォーマットで記録し、数週間分を照合しました。
すると、崩れる日は“排便がない日”と高い確率で一致していました。

そこでやったのは、行動の制止ではありません。身体の準備と回復を、毎日同じ基準で積みました。

  • 腹部をやさしく時計回りに撫でる(数十秒でOK)
  • 膝抱え姿勢・丸まる姿勢を遊びに混ぜる
  • しゃがむ・またぐ・段差を使う動作を日課にする
  • 「ふー」と吐く練習(笛・風車・シャボン玉でも可)
  • 足裏刺激(マット、凸凹、踏み台)

排便リズムが整ってくると、午後の他害が減りました。怒りを止めたのではなく、身体の不快を下げただけです。


トイレが嫌いな理由は「わがまま」ではない

トイレ空間は、特性の強い子どもにとって“刺激の塊”です。嫌がる理由が複数重なります。

  • 匂い:本人は言語化できないが、拒否の引き金になる
  • :換気扇・水音・反響が痛いように感じる子もいる
  • 視覚:狭さ・影・タイル模様が不安を増やす
  • 触覚:便座の冷たさ、紙の刺激、拭き取りが苦手
  • 姿勢:足が浮く、体幹が安定しない、落ちる感覚が怖い

ここを無理に通すほど、トイレ=脅威の学習が進みます。だから私たちは、まず“嫌がらない形”に変えます。

現場でよく効く調整

  • 足がつく踏み台(体幹が安定し、腹圧が入りやすい)
  • 便座の温度(冷たさがトリガーならカバーで軽減)
  • 反響を減らす(ドア開放、換気扇のタイミング調整)
  • 照明(眩しさが強いなら弱める、間接光)
  • 拭き取りの工夫(刺激が強い子は湿りタイプや順序を固定)

勝ち筋は「成功回数」です。長く座らせるより、短くても“嫌がらずに終われた”を増やします。


排便が「分からない」子に起きる、見えにくい行動の変化

排便前兆は、必ずしも攻撃で出ません。むしろ“別の困り方”で出ることがあります。

  • 眠そうに見える(実際はしんどくて横になっている)
  • 寝転がる・動かない(フリーズの形で出る)
  • 視線が合いにくい(処理が追いつかない)
  • いつもより指示が入らない(理解が落ちる)
  • 小さなことで崩れる(刺激耐性が下がる)

ここで「今日は調子が悪い」で終わると、次も同じことが起きます。だから、排便を“仮説”として扱い、ログで潰します。


日頃の訓練:トイレで練習しない。生活で育てる

排便の困りは、トイレだけで解決しません。身体の土台を日常で育てます。
これは療育整体のような大げさな話ではなく、赤ちゃんの頃に自然にやっていることの再構築です。

腹部・骨盤まわりをゆるめる

  • 腹部を時計回りに撫でる(短くていい、毎日)
  • 腰を左右にゆらす(抱えた姿勢で揺らすだけでも可)
  • 丸まる姿勢を作る(膝抱え、クッションで)

腹圧の練習は「吐く」から

  • 風車・笛・シャボン玉で「ふー」
  • 重い物を少し押す・引く(体幹に入る)
  • しゃがむ・またぐ・登る(体幹と骨盤)

ポイントは、本人の嫌がりを増やさないこと。嫌がる訓練は続きません。続く形に落とすのが支援です。


待つ力を育てる:排泄は「今すぐ」に弱い

排泄が絡む場面は、本人の余裕が減っています。「待て」「あとで」は通りにくい。
ここで重要なのは、普段から“待てる構造”を育てることです。

  • 見通し(写真・短い言葉・順番)
  • 終わりの明確化(タイマー、回数)
  • 成功の積み上げ(待てた秒数を増やす)

排便前兆が出ているときに待たせるのではありません。平常時に、待てる体験を作ります。
そうすると、崩れた場面での立て直しが速くなります。


「ご褒美」と「生理的欲求」の線引き

空腹や排便が絡むと、強化が効きやすいことがあります。満たされると機嫌が良く、指示が入りやすい。これは現場で実感するはずです。

ただし、ここはバランスが難しい。生理的欲求を“報酬”として使いすぎると、要求が先鋭化することもあります。

  • まず生理(排便・水分・空腹)を整える
  • その上で、要求は「適切な伝え方」に置き換える
  • すぐ出せない時は、代替(待つ、選ぶ、量を決める)を教える

私たちが目指すのは「要求を消す」ではなく、「要求が生活を壊さない形にする」ことです。


家庭と共有するためのログ(最小フォーマット)

家庭に届かなければ意味がありません。排泄は特に、家庭情報がないと外します。そこで、情報の粒度を揃えます。

  • 排便:有/無/少量/硬さ(分かる範囲で)
  • 前兆:汗・声量・多動・常同行動(段階)
  • 介入:刺激を減らした/腹部ケア/トイレ誘導(可否)
  • 結果:落ちた/落ちない/他害・自傷の有無
  • メモ:いつもと違うこと(給食、移動、行事など)

「細かすぎる」と思うかもしれません。でも答えは、いつも細部にあります。


医療につなぐべきライン

現場でできるのは“支援”です。医療が必要なラインは明確に持ちます。

  • 腹部膨満が強い、嘔吐、血便、強い痛みの疑い
  • 便秘が長期化し、行動が連日悪化している
  • 下剤・整腸剤の調整が必要そう

「支援で何とかする」ではなく、必要なら早く医療へ。これも支援の一部です。


最後に:親の感覚を信じていい

「今日は何か違う」「このままでは崩れる」その感覚は、当たっていることが多いです。
ただ、家庭では“理由が言語化できない”まま抱え込む。学校では“集団の中の一コマ”として流れてしまう。

だから私たちは、行動の前の段階を拾い、排泄という見落とされやすい要因を仮説として扱い、ログで確かめます。
子どもを責めない。親を責めない。止めるより先に、身体を整える。そこから生活は回り始めます。


まとめ

よくあるズレ

  • 「トイレに連れていけば解決」→座る負荷が高いと逆に悪化します
  • 「出たのに荒れるのは別問題」→残便感・違和感で神経が落ちないことがあります
  • 「原因が排泄なら本人が言うはず」→内受容感覚が弱いと“言えない”が前提です

排泄は、恥でも甘えでもありません。神経状態を左右する現実です。

行動は最後に出ます。その前に必ずヒントがあります。

もし最近、理由の分からない荒れが増えているなら、まず「排便ログ」と「前兆ログ」だけでも始めてください。支援は、原因が見えた瞬間に一気にシンプルになります。

そして一番大事なのは、見つけたパターンを“誰でも再現できる手順”に落とすこと。そこまでやって初めて、属人性が減ります。