
クレーン現象とは|自閉症・発達障害に多い理由と対応方法【構造で整える支援】
クレーン現象とは、子どもが他者の手を引き、目的の物や場所へ連れていく行動です。
自閉症や発達障害のある子どもに非常に多く見られます。
しかし、これは単なる「癖」でも「甘え」でもありません。
そして対応を誤ると、一日中引っ張られる状態になります。
本稿では、クレーン現象を「やめさせる対象」として扱いません。
子どもが伝えられていないもの(状態・要求・不安)を読み取り、表出手段を育てて“主手段から外す”ための具体策までを整理します。
親の視点:一日中引っ張られる現実
クレーンで伝えてくれるようになった。
それ自体は成長です。
しかし現実はきれいではありません。
朝から夜まで、片時も休む暇がないことがあります。
休日は家の中をあっちへ、こっちへ、何度も連れ回される。
親から見れば、意味がないように見える時間もある。
しかし本当に意味がないのかは分かりません。
- 排泄の違和感かもしれない
- 感覚の揺れかもしれない
- 不安かもしれない
- 寂しさかもしれない
- 存在確認かもしれない
クレーンで引っ張る相手には優先順位があります。
最も伝わりやすい人。
最も応えてくれる人。
最も安心できる人。
だからこそ、その人が疲弊します。
ここで重要なのは、親の根性論ではありません。
「引かれた」こと自体を情報として扱い、状態を整え、表出を変換していく設計が必要です。
放課後等デイサービスの視点:振り解くと何が起きるか
放課後等デイサービスの現場でも、手を振り解いてしまう場面は起こります。
しかし一貫しない対応は、行動を強化します。
- 振り解く → 不安定化
- 応え続ける → 依存固定
- 人によって違う対応 → 強度上昇
結果として力が強くなり、他害や自傷へ移行することもあります。
クレーンは問題行動ではなく、未熟な要求表出です。
そしてもう一段深く言えば、「接続(安心・理解・伝達)が切れそうな瞬間に起きる行動」でもあります。
クレーンが増える時間帯
夜に増えるケースが多い。
- 神経疲労
- 一日の抑制の反動
- 眠気と覚醒の混在
- 安心対象への集中
夜のクレーンは甘えではなく、確認行動に近いことがあります。
ここを「やめさせよう」とすると、余計に強くなることがあります。
クレーンはいつまで続くのか
結論から言えば、自然には消えません。
しかし、適切に扱えば変わります。
- 放置 → 固定化
- 振り解く → 強度上昇
- 応え続ける → 常時依存
- 構造で変換 → 表出の洗練
年齢の問題ではありません。
表出手段の成熟度の問題です。
小学生高学年でも、発語が乏しい子は普通に出ます。
出口は「消す」ことではなく、「主手段でなくする」ことです。
具体的対応方法:振り解かない。即応しない。
「振り解かない」は甘やかしではありません。
切断を避けるためです。
「即応しない」は無視ではありません。
変換を入れるためです。
基本構造
- 手を引かれたら一度止まる
- 目線を作る
- 要求を言語化する
- 指差しやカードへ変換
- 成功体験を必ず作る
重要なのは「変換」です。
クレーンの強さではなく、クレーンの後に“別の表出”を差し込めたかで支援の質が決まります。
具体的訓練
① クレーン→指差し
目的物の前で止まり、「これ?」と確認します。
指差しが出たら、その瞬間に叶えます(成功体験)。
繰り返すと指差しへ移行します。
② クレーン→一語発声
「あけて」「ちょうだい」など一語で成功体験を作ります。
発語が難しい場合は、音声ボタン・写真・絵カードでも同じ構造で作れます。
③ 待つ力の育成
0秒→1秒→3秒→5秒と段階的に伸ばします。
重要なのは「待たせる」ではなく、待てた経験を積ませることです。
生理的要因の確認
クレーンが増えたら、まず以下を確認します。
行動だけを見ないことが重要です。
「伝えられない状態」をクレーンで表現している子は多いからです。
出口:クレーンは育てて変える
クレーンは消すものではありません。
人を頼れている証拠です。
出口は、「他者を信頼しながら、自分の方法で伝えられる状態」になること。
クレーンは発達の入口です。
構造で整えれば、形は変わります。
感情で対応しない。
設計で支える。
それが支援の役割です。
実例①:休日、朝から晩まで引かれ続ける
朝、目が合った瞬間に手を取られる。
まだ何も始まっていないのに、引かれる。
廊下へ。
玄関へ。
またリビングへ。
目的地はない。
ただ移動する。
ソファに座ろうとすると強く引く。
キッチンに立つと背中を叩いてでも引こうとする。
正直、疲れる。
「何がしたいの?」「どこ行くの?」と何度も聞く。
もちろん返事はない。
次第にイライラしてくる。
意味がない行動に感じる。
でもある日、記録を取った。
- 排便の有無
- 前日の睡眠
- その日の気温
- 汗の量
- 昼食の内容
すると、引きが強い日は排便がない日と一致していた。
夕方以降に増える。
室温が高い日は悪化する。
意味がないのではなかった。
「言えない違和感」を身体で伝えていた。
そして排便が出た夜、クレーンは嘘のように消えた。
ここで終わりではありません。
重要なのは「偶然当たった」ではなく、次から再現できるように設計することです。
- 引きが強い日ほど、まず排泄・体温・汗・空腹を確認する
- 確認したうえで、クレーンを“指差し・カード”へ必ず変換する
- 成功体験(伝わった)で終え、無限ループに入れない
あの日から、引かれた時に怒らなくなった。
まず状態を見るようになった。
そして、同じ行動でも「扱い方」が変わったことで、家庭の疲労が減った。
実例②:振り解かれた瞬間の顔(放課後等デイサービス)
放課後等デイサービスでの出来事。
活動中、支援者の手を引く。
支援者が「今は無理」と言って手を振り解く。
その瞬間の顔。
一瞬、無表情になる。
目が止まる。
そして次の瞬間、動きが荒くなる。
- 服を強く引く
- 別の支援者へ急に移動する
- 机を叩く
- 自分の頭を打ちかける
拒否されたのではなく、「接続が切れた」状態だった。
同じ場面で、別の支援者がこう対応した。
「今はこれしてるね。終わったら行こう。」
と言葉と同時に視線を合わせ、軽く肩に触れる。
すると、荒れは起きなかった。
差は“優しさ”ではありません。
切断したのか、変換を入れて接続を保ったのかの差です。
この出来事から現場で決めたことはシンプルです。
- 振り解かない(切断を作らない)
- 即応しない(変換を入れる)
- 全職員で同じ構造を共有する(人によるブレを減らす)
これだけで、クレーンの強度は落ちていきます。
そして、他害・自傷へ移行する割合も下がります。
実例③:夜に増えるクレーン
昼間は穏やか。
しかし夜になると変わる。
風呂上がり。
歯磨き前。
布団に入る直前。
何度も引く。
玄関へ。
ベランダへ。
廊下往復。
怒っていない。
泣いていない。
でも落ち着かない。
後から分かったこと。
- 一日の神経疲労
- 抑えていた刺激の反動
- 排便前の違和感
- 眠気と覚醒のせめぎ合い
夜のクレーンは、一日分の状態整理行動だった。
そこで寝る前に以下を入れた。
- 足裏刺激
- 腹部の軽いマッサージ
- 室温調整
- 排泄確認
するとクレーンの回数は明らかに減った。
ここも重要です。
「夜だから我慢」ではなく、夜に増える理由を仮説化し、先に整える。
この順番に変えたことで、夜の家庭が回り始めた。
実例④:意味が分かると、風景が変わる
以前は引かれるたびに「またか」と思っていた。
でも構造で見始めると、風景が変わった。
引き方の強さ。
時間帯。
汗の量。
視線の動き。
全部ヒントだった。
ある日、強いクレーンの後に排便が出た。
その直後、子どもは穏やかに座り、好きな玩具に集中した。
その姿を見たとき、「行動を止めようとしていた自分」が恥ずかしくなった。
止めるのではなく、整える。
クレーンは問題行動ではない。
状態の言語だ。
そして最後に、これだけは明確に言えます。
クレーンは“親を壊す行動”にもなり得ます。
だからこそ、根性で耐えるのではなく、
状態確認→変換→成功体験→終了という型を持つ必要がある。
