
▶ 強度行動障害の支援方法
【ケーススタディ】
本記事では、発達特性のある児童に見られた行動をもとに、前兆・背景・支援の判断・結果を整理したケーススタディを紹介します。
※個人が特定されないよう、年齢以外の一部情報は抽象化・調整しています。
顔を叩く自傷行動|強度行動障害のケース(待機時間に増えるタイプ)
この記事では自傷(顔を叩く行動)の支援事例を通して、強度行動障害の支援方法で重要になる感覚刺激・覚醒調整・待機構造の視点を整理します。
「叩く」だけを止めない。前兆→分析→判断→支援→結果→再発予防まで、現場の視点で整理します。
児童の基本情報(個人特定を避けた概要)
- 年齢:小学2年生
- 診断:自閉スペクトラム症(ASD)
- 知的特性:重度知的障害
- 言語:発語なし(要求は行動・表情・ジェスチャー中心)
- 感覚特性:刺激が少ない時間に手持ち無沙汰になりやすく、自己刺激行動が出やすい
- 行動特性:待機・移行の間に頬や口元を叩く自傷が見られることがある
支援歴
当施設の利用歴は約10か月。利用当初から「顔を叩く」行動が散発的に見られていた。
ただし、課題が難しい時や叱責の直後に増えるというより、活動の合間(待機)で増える傾向があった。
過去には、顔叩きが続いた後に興奮が上がり、物を投げる行動へつながる場面もあった。
環境条件
放課後の室内活動。小集団活動が終わり、次の活動準備までの待機時間。
周囲では他児が制作の片付けをしており、職員も準備や他児対応で動いていた。
本人は椅子に座って待っていたが、本人にとって「何をすればいいか」が曖昧になりやすい時間帯だった。
ケース(何が起きたか)
活動の区切り後、本人は椅子に座り、机の端を指で触りながら待っていた。
その後、周囲の動きが落ち着き、本人への直接の関わりが薄くなったタイミングで、
右手で頬を数回叩く行動が見られた。
叩く強さは軽〜中等度。叩きながら身体を小さく揺らし、視線が宙に固定される様子があった。
その後、叩く頻度が増え、両手で口元〜頬を交互に叩く動きに移行した。
叩きの合間に短い声(「んー」など)が出る場面もあり、覚醒が少し上がっている様子が見られた。
前兆(行動前の変化)
顔叩きが起きる直前、次の変化が見られていた。
- 身体を前後に小さく揺らす
- 指先で机・衣服・手元を繰り返し触る
- 視線が宙(一点)に固定される
- 口元に指を持っていく/唇を触る
これらは、刺激不足や待機の手持ち無沙汰が続く場面で、
本人が自己刺激で状態を調整し始める際に出やすいサインである。
分析(なぜ行動が起きたのか)
今回の顔叩きは、叱責や課題負荷の直後に起きたものではなく、待機時間(刺激が減る時間帯)で増えていた。
このタイプは「攻撃」や「拒否」ではなく、本人が自分の神経状態(覚醒)を調整するための
自己刺激(self-stimulation)として機能している可能性がある。
ABC(行動随伴性)での整理
- A(先行事象):活動が終わり、次の見通しが曖昧/関わりが薄い待機/刺激量の低下
- B(行動):顔(頬・口元)を叩く(反復)/身体揺れ
- C(結果):触覚・振動刺激が得られる/覚醒が上がる/大人が注目し関わりが増えることがある
このケースで重要なのは、C(結果)として感覚刺激が得られる点である。
つまり、たとえ大人の注意が入らなくても行動が維持される可能性がある(自動強化)ため、
「叱って止める」「手を押さえる」だけでは長期的に減りにくい構造がある。
支援の選択肢
- 注意・叱責で止める(「叩かない」)
- 手を押さえて制止する
- 待機のまま様子を見る
- 待機構造を作り、手持ち無沙汰を減らす
- 代替刺激(安全な自己刺激)へ置き換える
支援の判断理由(なぜそれを選んだか/選ばなかったか)
叱責や強い制止は、短期的に止まったように見えても、本人の緊張を上げたり、別の行動(物投げ・床伏せ)へ転移するリスクがある。
また、このタイプは自動強化(感覚刺激)が疑われるため、注意で止めるよりも
環境側(待機の設計)を変える方が再現性が高い。
そのため今回は「顔叩きをゼロにする」ではなく、
①待機時間の曖昧さを減らす ②安全な代替刺激を用意する
ことで、行動が起きにくい条件を作る方針を選択した。
実施した支援
- 待機時間に入る前に、「いま→つぎ」を短く提示(次の活動写真・カード)
- 待機は「座って待つ」だけにせず、短い役割(配る・運ぶ)を入れて体を使う
- 手持ち無沙汰になりやすい子には、握れる道具(ボール・感覚玩具)を事前に渡す
- 顔叩きが出たら、正面から止めるのではなく、代替刺激へ静かにスイッチ(手元へ誘導)
結果
待機の見通し提示と短い役割導入により、待機中の顔叩きは徐々に減少した。
特に「何をして待てばよいか」が明確な日は、顔叩きが出ても短時間で収束し、
代替刺激(握れる道具)へ移行できる場面が増えた。
再発予防(次回対応)
今後は待機時間が発生する場面では、最初から「待ち方」を設計し、
本人が自己刺激に入る前に手持ち無沙汰を埋める構造を作る。
具体的には、
- 待機は「何もしない時間」にしない(短い役割・短い活動を入れる)
- 刺激不足が起きやすい子には、代替刺激を先出ししておく
- 顔叩きが出ても、叱責ではなく環境と手元のスイッチで対応する
- 頻度が上がる日は、体調・睡眠・疲労など背景要因も合わせて評価する
このケースから見える支援の視点
- 自傷でも「負荷過多型」だけでなく、刺激不足・覚醒調整型がある
- 待機時間は支援が薄くなりやすく、行動が出やすいハイリスク帯
- 叱って止めるより、待機構造の設計と代替刺激で再発が減ることがある
- 行動そのものより、行動が起きる条件を管理する
関連リンク
- 体系的な支援方法:強度行動障害の支援方法
- 施設の支援方針:ふきのこについて
- 事例一覧(ケース一覧):強度行動障害の事例・ケーススタディ
強度行動障害の支援方法を体系的にまとめています

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