
強度行動障害の対応事例
爆発を「止める技術」としてではなく、前兆・誤読・設計の問題として整理するための事例集です。
他害・自傷・逸走を、実例 → 誤読 → 設計の順で見ていきます。
はじめに|爆発は突然ではなく、積み上がりの結果として起こることがある
強度行動障害の行動は、突然起きるように見えることがあります。
しかし実際には、前兆、負荷の積み上がり、環境条件、支援者側の関わり方が重なって表れることが少なくありません。
本記事では、放課後等デイサービスの現場をもとに、他害・自傷・逸走を
「実例 → 誤読 → 設計」
の順で整理します。
止める技術ではなく、追い込まない支援の設計を考えるための事例集です。
ここで扱う事例は、「正解の対応集」ではありません。
何を見落とし、どこで誤読し、どう設計を変えるかを考えるための材料としてご覧ください。
事例① 他害|「静かになった」を安定と誤読した場面
事例の条件
小学校低学年。終了場面や周囲の音が重なると固まりやすく、切り替え時に内部負荷が上がりやすい子。
その日は制作活動の終了が近く、椅子の音、笑い声、片付けの動きが同時に重なっていました。
実例
「はい、片付けよう。」と声をかけたあと、その子は急に止まりました。
動かない。声も出ない。静か。
私はその時、「今日は落ち着いている」と受け取りました。
しかし次の瞬間、隣の子の頬に平手が入りました。
私は反射的に手を押さえ、「叩かない。落ち着こう」と制止しました。
すると叩く回数は増え、狙いも顔へ変わっていきました。
その場での誤読
この場面での誤読は、静止を安定と見たことでした。
実際には、視線固定、呼吸の浅さ、肩の緊張がすでに出ており、落ち着いていたのではなく、限界が近かった可能性が高かったと後から分かりました。
事前に確認すること
終了場面で負荷が上がりやすい子か。
音・密度・動きの重なりに弱さがないか。
前兆でやること
終了3分前・1分前の固定予告。
視覚提示で次の流れを先に見せる。
前兆が出た時点で声を増やさず、刺激の少ない位置へ移す。
爆発中にやらないこと
強い声で言い聞かせる。
正しさを通そうとする。
顔の近くで制止を続ける。
事後に記録すること
叩く前30秒の表情、呼吸、視線、周囲の音。
片付けの予告量。
どの関わりで強度が上がったか。
他害の事例をさらに読みたい方へ
事例② 自傷|「やめさせる」に集中しすぎた場面
事例の条件
制作課題の難易度が少し上がると負荷が高まりやすい子。
その日は睡眠が浅く、食事量も少なく、予定変更も重なっていました。
実例
「あと少しだよ」と声をかけた直後、その子は自分の頬を叩きました。
私は手を押さえ、「やめよう」と声をかけました。
すると強度は上がり、今度は机に額を打ちつけようとしました。
その場での誤読
この場面での誤読は、自傷を「やめさせる対象」としてだけ見たことでした。
後から整理すると、その日は睡眠、食事、予定変更といった身体的・環境的負荷が重なっており、自傷は突然ではなく、積み上がった限界の表れだった可能性が高いと分かりました。
事前に確認すること
睡眠、空腹、排泄、体調。
予定変更の有無。
その日の課題難易度。
前兆でやること
工程を細かく区切る。
「あと少し」で押さず、休憩の選択肢を先に置く。
反応の遅さや表情変化があれば負荷を下げる。
爆発中にやらないこと
やめることだけを繰り返し求める。
説明を増やす。
机上課題を続ける。
事後に記録すること
睡眠・食事・予定変更の条件。
どの声かけで強度が変わったか。
課題設定はその日に合っていたか。
自傷の事例をさらに読みたい方へ
事例③ 逸走|「外へ行きたい」と早合点した場面
事例の条件
新しい課題や予告不足に弱く、説明が長いとその場に留まること自体が負荷になりやすい子。
実例
新しい課題の説明中、その子の足先が出口方向へ向きました。
視線も入口側に流れ、体が少し浮いたように見えました。
次の瞬間、走りました。
私は追いかけて捕まえ、「危ない」と強く言いました。
その翌日は、さらに速く走りました。
その場での誤読
この場面での誤読は、逸走を「外へ行きたい意思表示」としてだけ見たことでした。
実際には、その場の説明や負荷に耐えにくくなっていた可能性が高く、外へ行きたいのではなく、その場から離れること自体が目的だったと考えられました。
事前に確認すること
新規課題に対する弱さ。
説明量の適正。
退避場所の設定。
前兆でやること
事前提示で流れを予測可能にする。
説明を短く区切る。
足先、視線、体の向きの変化が出た時点で退避を許可する。
爆発中にやらないこと
大声で追う。
捕まえてその場に戻すことだけを優先する。
危険説明を長くする。
事後に記録すること
説明時間。
走る前の体の向きと視線。
追跡後に強化された要素がなかったか。
逸走の事例をさらに読みたい方へ
3つの事例に共通して見える構造
3つの事例に共通していたのは、爆発そのものより前に、前兆と負荷の積み上がりがあったことです。
共通して見られたのは次の点です。
- 前兆はゼロではなく、視線、呼吸、停止、足先、反応の遅さとして出ていた
- 爆発中は学習や理解を通しにくく、正しさを入れる場面ではなかった
- 支援者の声の強さ、説明量、追跡、制止が刺激を増やしていた可能性がある
- 止める技術より、追い込まない設計の方が再発予防につながりやすい
事例を読む目的は、「うまい対応」を覚えることではありません。
何を見落とし、どこで誤読し、どう設計を変えるかを考えるためです。
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よくある質問
事例は「正解」なのですか?
いいえ。事例は正解集ではなく、見落とし・誤読・設計変更を考えるための材料です。子どもの状態やその日の条件によって、見るべき点は変わります。
爆発中に一番大事なことは何ですか?
安全確保を最優先にしつつ、説明を増やしすぎず、刺激を上げすぎないことです。爆発中は「理解を通す時間」ではなく、「深くしない時間」と考えた方がズレにくくなります。
一番大事なのは止め方ですか?
止め方だけでは不十分です。事前の確認、前兆への対応、爆発中にやらないこと、事後の記録まで含めて設計し直すことが、再発予防には重要です。
