
▶ 強度行動障害の支援方法
【ケーススタディ】
本記事では、支援者の「善意の声掛け」が結果として行動を強化してしまった
誤学習(声掛け過多/過剰プロンプト)のケースを紹介します。
※個人が特定されないよう、一部情報は抽象化しています。
誤学習ケース⑧|声掛け過多で固定された他害行動(名前連呼・質問攻めが強化になった例)
強度行動障害の支援現場では、危険が起きそうな場面ほど支援者は言葉を増やしがちです。
しかし、その声掛けが
行動を止めるどころか、行動を強化する
ことがあります。
本ケースは、他害行動に対して
- 名前を連呼する
- 「どうした?」「なになに?」を繰り返す
- 長い説明や説教をする
という対応が続いた結果、
行動が注目獲得と刺激増幅の両面で固定化した可能性があるケースです。
強度行動障害の支援の土台は
強度行動障害の支援方法
で体系化しています。
児童の基本情報
- 年齢:小学4年生
- 診断:自閉スペクトラム症(ASD)
- 知的特性:重度知的障害
- 言語:発語はほぼなし(要求は引っ張る/押す/手渡し中心)
- 感覚特性:音刺激・人の接近・視線に敏感
- 行動特性:緊張が高まると叩く/爪を立てるなどの他害が出ることがある
支援歴
施設利用歴は約1年。環境が整うと落ち着いて過ごせるが、刺激が多い場面や見通しが崩れる場面で
緊張が一気に上がるタイプ。
特に「止められる」「言われる」「囲まれる」状況で興奮が増幅しやすい傾向があった。
環境条件(現場が薄くならないよう具体化)
場面は帰りの準備前後。室内では
- 送迎バッグの準備
- 保護者連絡帳の確認
- 児童の靴下・上着の着脱
が同時並行で進んでいた。
玄関付近は人の出入りが多く、椅子を引く音、靴箱の扉の音、支援者の呼びかけなど
複数の刺激が重なっていた。
対象児は室内の端で、好きな玩具(パズル)を手元に置いて座っていた。
ケース(何が起きたか)
支援者が「片付け」を促す目的で対象児へ近づき、玩具に手を伸ばした。
その瞬間、対象児は表情が硬くなり、支援者の手元を凝視した後、突然支援者の腕を叩いた。
叩かれた支援者は反射的に距離を取りつつ、次のように声をかけた。
- 「○○くん!やめて!」(名前連呼)
- 「どうしたの?どうした?」(質問連発)
- 「叩いたらダメ!」(禁止語)
- 「お友達もいるよ、危ないよ、落ち着こう」
周囲の支援者も「危ない」と判断し、複数名が一斉に近づいた。
すると対象児は興奮が増し、
- 叩く回数が増える
- 爪を立てて掴みにいく
- 支援者の服を引っ張る
- 大声(奇声)を出す
へ発展した。
この状態になると、言葉の理解はほぼ届かず、支援者が声をかけるほど刺激が増え、興奮が上がる様子が見られた。
前兆(行動前の変化)
実は「突然」ではなく、直前に複数の前兆が出ていた。
- 視線が一点に固定(玩具と支援者の手元)
- 身体の動きが止まる(フリーズ)
- 肩が上がり、呼吸が浅くなる
- 手元の玩具を強く握る
- 唇を結び、顔の筋緊張が増える
この段階で本人の中では「取られる」「終わる」「分からない」という不快や不安が上がっていた可能性が高い。
分析①:声掛け過多が起こす2つの悪化ルート
このケースが難しいのは、声掛けが単に「うるさい」だけではなく、行動を強化するルートが
2本存在する点です。
ルートA:注目強化(attention)
他害をすると支援者が一斉に反応する。
叩く → 支援者が来る → 声が増える → 視線が集まる
これが繰り返されると、本人の学習として
叩けば人が動く
が成立します。説教でも注意でも、本人にとっては「強い関わり」そのものが結果になり得ます。
ルートB:刺激増幅(sensory overload)
この児童は音刺激・接近・視線に敏感です。
そこに
- 名前連呼
- 質問攻め
- 複数人が囲む
- 矢継ぎ早の説明
が重なると、刺激処理が破綻し、興奮が上がります。
叩く → 声が増える → 刺激が増える → さらに叩く
このループは、本人が「意図して」起こすというより、状態が崩れた結果として自動的に起きます。
分析②:ABC分析(行動の前後を整理)
A(Antecedent)
- 帰り支度の刺激(音・動き・人の出入り)が増える
- 玩具を片付ける場面で、支援者が接近し手を伸ばす
B(Behavior)
- 叩く/爪を立てる/掴む
C(Consequence)
- 支援者が一斉に反応し、声掛けが増える
- 複数人が近づき、囲まれる
- 結果として場面が止まり、本人中心に空間が再編される
このCが成立している限り、行動は「止めてもらえる」どころか、別の意味で維持されやすい。
初期対応(失敗)
当初の支援は「止める」が中心でした。
- 名前を呼び続ける(○○くん!○○くん!)
- どうした?なになに?を連発する
- 禁止語で止める(ダメ、やめて、危ない)
- 理由説明を重ねる(叩いたら痛いよ、ルールだよ)
- 複数名で囲んで安全確保しながら声を重ねる
結果として、本人の状態は改善せず、むしろ興奮が強くなる場面が増えました。
支援の再設計(ここが本題)
再設計のポイントは「声を減らす」だけではありません。
状態の段階に応じて、声の役割を変える
ことです。
①前兆段階:声を「増やす」のではなく、環境を下げる
- 帰り支度の人の動線を整理(玄関側の密度を下げる)
- 片付けは「取り上げ」ではなく「交換」にする(次の活動 or 終了合図)
- 声掛けは短く1語(例:「おわり」「やすむ」)
- 距離をとる(近づきすぎない)
この段階で最も危険なのは、本人の緊張に「言葉を重ねて乗せる」ことです。
②爆発直前:言葉を捨て、動線と安全だけを作る
叩きが出た瞬間にやりがちなのが「説得」です。
しかしこの段階では言葉は届きません。
- 声は1回だけ、低く短く(例:「止まる」「ここ」)
- 周囲児童を離す(本人へ近づく人数を減らす)
- 囲まない(包囲が刺激になる)
- 安全確保は最小限(必要な時だけ)
③落ち着き始め:代替行動を「その場で成立」させる
落ち着き始めた瞬間に説教を始めると、再点火します。
ここで必要なのは
次の行動の型
を作ることです。
- 要求カード(休憩/離れる/終わり)を手渡しで提示
- 成功したら即座に静かに叶える
- 言葉は褒め言葉ではなく「事実のラベリング」だけ(例:「カード」「できた」)
結果
声掛けを減らし、囲む人数を減らし、前兆段階での環境調整を徹底したことで、
他害の頻度は徐々に減少しました。
特に効果が大きかったのは、
- 「近づき方(距離)」の統一
- 声掛けを短く固定(スタッフ間で言葉を揃える)
- 前兆の段階で休憩へ逃がす
この3点でした。
完全に消えたわけではありませんが、
爆発の規模が小さくなり、回復までの時間も短縮しています。
このケースから見える支援の視点
- 声掛けは支援にも強化子にもなる
- 「どうした?」は情報収集のつもりでも、状態が崩れている子には刺激になり得る
- 名前連呼は安心ではなく、興奮を上げる場合がある
- 言葉が届くのは「落ち着いている時」だけ。段階を間違えると逆効果
- 支援者間で声掛けの型を揃えると、現場が安定する
関連リンク
- 体系的な支援方法:強度行動障害の支援方法
- ふきのこの考え方:ふきのこについて
- ケース一覧:強度行動障害の事例・ケーススタディ
強度行動障害の支援方法を体系的にまとめています

コメント