誤学習ケース⑧|声掛け過多で固定された他害行動(名前連呼・質問攻めが強化になった例)

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具体的な支援の組み立て方や現場での対応手順については、以下の専門ページで詳しく解説しています。
強度行動障害の支援方法

【ケーススタディ】
本記事では、支援者の「善意の声掛け」が結果として行動を強化してしまった
誤学習(声掛け過多/過剰プロンプト)のケースを紹介します。
※個人が特定されないよう、一部情報は抽象化しています。

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誤学習ケース⑧|声掛け過多で固定された他害行動(名前連呼・質問攻めが強化になった例)

強度行動障害の支援現場では、危険が起きそうな場面ほど支援者は言葉を増やしがちです。

しかし、その声掛けが

行動を止めるどころか、行動を強化する

ことがあります。

本ケースは、他害行動に対して

  • 名前を連呼する
  • 「どうした?」「なになに?」を繰り返す
  • 長い説明や説教をする

という対応が続いた結果、
行動が注目獲得刺激増幅の両面で固定化した可能性があるケースです。

強度行動障害の支援の土台は
強度行動障害の支援方法
で体系化しています。


児童の基本情報

  • 年齢:小学4年生
  • 診断:自閉スペクトラム症(ASD)
  • 知的特性:重度知的障害
  • 言語:発語はほぼなし(要求は引っ張る/押す/手渡し中心)
  • 感覚特性:音刺激・人の接近・視線に敏感
  • 行動特性:緊張が高まると叩く/爪を立てるなどの他害が出ることがある

支援歴

施設利用歴は約1年。環境が整うと落ち着いて過ごせるが、刺激が多い場面や見通しが崩れる場面で
緊張が一気に上がるタイプ。

特に「止められる」「言われる」「囲まれる」状況で興奮が増幅しやすい傾向があった。

環境条件(現場が薄くならないよう具体化)

場面は帰りの準備前後。室内では

  • 送迎バッグの準備
  • 保護者連絡帳の確認
  • 児童の靴下・上着の着脱

が同時並行で進んでいた。

玄関付近は人の出入りが多く、椅子を引く音、靴箱の扉の音、支援者の呼びかけなど
複数の刺激が重なっていた。

対象児は室内の端で、好きな玩具(パズル)を手元に置いて座っていた。

ケース(何が起きたか)

支援者が「片付け」を促す目的で対象児へ近づき、玩具に手を伸ばした。

その瞬間、対象児は表情が硬くなり、支援者の手元を凝視した後、突然支援者の腕を叩いた。

叩かれた支援者は反射的に距離を取りつつ、次のように声をかけた。

  • 「○○くん!やめて!」(名前連呼)
  • 「どうしたの?どうした?」(質問連発)
  • 「叩いたらダメ!」(禁止語)
  • 「お友達もいるよ、危ないよ、落ち着こう」

周囲の支援者も「危ない」と判断し、複数名が一斉に近づいた。

すると対象児は興奮が増し、

  • 叩く回数が増える
  • 爪を立てて掴みにいく
  • 支援者の服を引っ張る
  • 大声(奇声)を出す

へ発展した。

この状態になると、言葉の理解はほぼ届かず、支援者が声をかけるほど刺激が増え、興奮が上がる様子が見られた。

前兆(行動前の変化)

実は「突然」ではなく、直前に複数の前兆が出ていた。

  • 視線が一点に固定(玩具と支援者の手元)
  • 身体の動きが止まる(フリーズ)
  • 肩が上がり、呼吸が浅くなる
  • 手元の玩具を強く握る
  • 唇を結び、顔の筋緊張が増える

この段階で本人の中では「取られる」「終わる」「分からない」という不快や不安が上がっていた可能性が高い。


分析①:声掛け過多が起こす2つの悪化ルート

このケースが難しいのは、声掛けが単に「うるさい」だけではなく、行動を強化するルートが
2本存在する点です。

ルートA:注目強化(attention)

他害をすると支援者が一斉に反応する。

叩く → 支援者が来る → 声が増える → 視線が集まる

これが繰り返されると、本人の学習として

叩けば人が動く

が成立します。説教でも注意でも、本人にとっては「強い関わり」そのものが結果になり得ます。

ルートB:刺激増幅(sensory overload)

この児童は音刺激・接近・視線に敏感です。

そこに

  • 名前連呼
  • 質問攻め
  • 複数人が囲む
  • 矢継ぎ早の説明

が重なると、刺激処理が破綻し、興奮が上がります。

叩く → 声が増える → 刺激が増える → さらに叩く

このループは、本人が「意図して」起こすというより、状態が崩れた結果として自動的に起きます。


分析②:ABC分析(行動の前後を整理)

A(Antecedent)

  • 帰り支度の刺激(音・動き・人の出入り)が増える
  • 玩具を片付ける場面で、支援者が接近し手を伸ばす

B(Behavior)

  • 叩く/爪を立てる/掴む

C(Consequence)

  • 支援者が一斉に反応し、声掛けが増える
  • 複数人が近づき、囲まれる
  • 結果として場面が止まり、本人中心に空間が再編される

このCが成立している限り、行動は「止めてもらえる」どころか、別の意味で維持されやすい。


初期対応(失敗)

当初の支援は「止める」が中心でした。

  • 名前を呼び続ける(○○くん!○○くん!)
  • どうした?なになに?を連発する
  • 禁止語で止める(ダメ、やめて、危ない)
  • 理由説明を重ねる(叩いたら痛いよ、ルールだよ)
  • 複数名で囲んで安全確保しながら声を重ねる

結果として、本人の状態は改善せず、むしろ興奮が強くなる場面が増えました。


支援の再設計(ここが本題)

再設計のポイントは「声を減らす」だけではありません。

状態の段階に応じて、声の役割を変える

ことです。

①前兆段階:声を「増やす」のではなく、環境を下げる

  • 帰り支度の人の動線を整理(玄関側の密度を下げる)
  • 片付けは「取り上げ」ではなく「交換」にする(次の活動 or 終了合図)
  • 声掛けは短く1語(例:「おわり」「やすむ」)
  • 距離をとる(近づきすぎない)

この段階で最も危険なのは、本人の緊張に「言葉を重ねて乗せる」ことです。

②爆発直前:言葉を捨て、動線と安全だけを作る

叩きが出た瞬間にやりがちなのが「説得」です。
しかしこの段階では言葉は届きません。

  • 声は1回だけ、低く短く(例:「止まる」「ここ」)
  • 周囲児童を離す(本人へ近づく人数を減らす)
  • 囲まない(包囲が刺激になる)
  • 安全確保は最小限(必要な時だけ)

③落ち着き始め:代替行動を「その場で成立」させる

落ち着き始めた瞬間に説教を始めると、再点火します。
ここで必要なのは

次の行動の型

を作ることです。

  • 要求カード(休憩/離れる/終わり)を手渡しで提示
  • 成功したら即座に静かに叶える
  • 言葉は褒め言葉ではなく「事実のラベリング」だけ(例:「カード」「できた」)

結果

声掛けを減らし、囲む人数を減らし、前兆段階での環境調整を徹底したことで、
他害の頻度は徐々に減少しました。

特に効果が大きかったのは、

  • 「近づき方(距離)」の統一
  • 声掛けを短く固定(スタッフ間で言葉を揃える)
  • 前兆の段階で休憩へ逃がす

この3点でした。

完全に消えたわけではありませんが、
爆発の規模が小さくなり、回復までの時間も短縮しています。


このケースから見える支援の視点

  • 声掛けは支援にも強化子にもなる
  • 「どうした?」は情報収集のつもりでも、状態が崩れている子には刺激になり得る
  • 名前連呼は安心ではなく、興奮を上げる場合がある
  • 言葉が届くのは「落ち着いている時」だけ。段階を間違えると逆効果
  • 支援者間で声掛けの型を揃えると、現場が安定する

関連リンク

       強度行動障害の支援方法を体系的にまとめています

       ▶ 強度行動障害の支援方法【構造・前兆・実践まで解説】        

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