唾を吐く行動|強度行動障害のケース(拒否・逃避が絡む唾吐き)

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具体的な支援の組み立て方や現場での対応手順については、以下の専門ページで詳しく解説しています。
強度行動障害の支援方法

【ケーススタディ】
本記事では、発達特性のある児童に見られた行動をもとに、前兆・背景・支援の判断・結果を整理したケーススタディを紹介します。
※個人が特定されないよう一部情報は抽象化しています。

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唾を吐く行動|強度行動障害のケース(拒否・逃避が絡む唾吐き)

この記事では、唾を吐く行動(唾吐き)について、強度行動障害の支援方法の視点から、行動の背景(機能)と支援判断を整理します。


児童の基本情報(個人特定を避けた概要)

  • 年齢:小学4年生
  • 診断:自閉スペクトラム症
  • 知的特性:最重度知的障害
  • 言語:発語なし
  • 感覚特性:対人距離・接近刺激に敏感
  • 行動特性:要求が通りにくい場面、切り替え場面で問題行動が出やすい
  • 強度行動障害の状態像がある

支援歴

以前から「唾を吐く」行動は散発的に見られていたが、特定の場面(切り替え・要求阻止・支援者の接近)でまとまって出現する傾向があった。

また、唾吐きが起きた際、周囲が大きく反応すると行動が増える場面があり、支援者間で「どう止めるべきか」の判断が揺れていた。

環境条件

下校後の入室直後。室内は児童の出入りが重なり、音や動きが多い時間帯だった。

対象児は入室後すぐに水筒へ向かったが、同時に別児の対応が入り、支援者の介入が遅れた。
その間、対象児は玄関付近で立ち止まり、周囲を見回す様子が見られていた。

ケース(何が起きたか)

支援者が「手洗い→荷物→おやつ」の流れへ誘導しようと近づいた瞬間、対象児は一歩下がり、支援者の方向に向けて唾を吐いた。

支援者が咄嗟に「ダメ」と声を出すと、対象児はさらに唾を繰り返し吐き、距離を取ろうと廊下側へ移動した。
追いかけるように支援者が近づくと、唾吐きの頻度が上がり、最後は床へ座り込み、唾を飛ばすような形に拡大した。

前兆(行動前の変化)

唾吐きの直前には次の変化が見られていた。

  • 視線が一点に固定(支援者や出口方向)
  • 身体の動きが止まる
  • 口元を触る/唇をすぼめる
  • 呼吸が浅くなる
  • 一歩下がる(距離を取る準備)

この前兆は「接近刺激に対する回避準備」として現れることが多い。

行動分析(ABC分析)

A(きっかけ)

  • 入室直後で環境刺激(音・人の動き)が多い
  • 本人が求めた行動(水分など)のタイミングがずれる
  • 支援者が近距離で誘導を開始する(接近刺激)

B(行動)

  • 支援者方向への唾吐き
  • 接近に対して唾吐きが連続
  • 座り込み+唾を飛ばす形へ拡大

C(結果)

  • 支援者が一瞬止まる/距離が空く
  • 誘導(手洗い等)が中断・遅延する
  • 周囲の反応(注意・声・拭き取り・人の移動)が増える

分析(なぜ行動が起きたのか)

唾吐きは「汚いからやめさせる」で終わる行動ではない。行動は必ず、本人にとってのがある。
今回のケースでは、少なくとも次の2つの機能が重なっている可能性が高い。

  • ①逃避(回避)機能:支援者の接近や誘導(手洗い等)から距離を作る
  • ②対人操作(制御)機能:唾吐きによって周囲が止まり、場の流れ(要求や誘導)を自分側へ変える

特に重要なのは、唾吐きが起きた直後に支援者が一瞬止まり、距離が空いた点である。
本人にとっては「吐けば相手が下がる」という学習が成立しやすい。

さらに、拭き取りや注意、周囲の人の移動など環境反応が大きいほど、
唾吐きは「場を動かす強いスイッチ」になる。
その結果、行動は連続化・激化しやすい。

また入室直後は、刺激量が多く、本人の処理能力が追いつきにくい時間帯である。
このときの接近刺激は、本人にとって「指示」ではなく「圧(プレッシャー)」として入りやすい。
唾吐きは、その圧を一気に下げるための行動として機能することがある。

支援の選択肢

  • 叱責・注意で止める
  • 近づいて制止する
  • 吐いたものをすぐ拭く
  • 距離と刺激を設計して落ち着かせる
  • 唾吐きが「得にならない」構造に変える

支援の判断理由(なぜそれを選んだか/選ばなかったか)

唾吐きに対して強い注意や接近制止を行うと、

  • 接近刺激が増える(本人の負荷が上がる)
  • 環境反応が大きくなる(行動が「場を動かす」)

結果として、唾吐きが強化される危険が高い。

そのためこのケースでは、行動を「言葉で止める」のではなく、
唾吐きが成立しにくい状況設計(距離・導線・見通し)へ切り替える判断が必要になる。

実施した支援

  • 周囲の児童を離し、安全距離を確保(「近づかない」)
  • 支援者は正面に立たず、斜め位置で視線圧を下げる
  • 短い言葉で「こっち」程度に留め、説明を増やさない
  • 誘導を押さず、一度「待つ」構造へ切り替える
  • 落ち着いた段階で、次の行動を一つだけ提示(手洗い→の順を崩さず最小提示)

結果

距離を確保し、誘導圧を下げた後、唾吐きは徐々に減少した。
完全消失ではないが、連続化は止まり、立ち上がって室内へ戻ることができた。

再発予防(次回対応)

このタイプの唾吐きは「本人の性格」ではなく、場の構造で起きる。
再発予防は次の3点が核になる。

  • ①入室直後の刺激密度を下げる:玄関周辺の混雑を避け、最初に入る位置・導線を固定
  • ②接近のしかたを統一:正面接近を避け、距離を取り、短い合図に統一(職員間でブレをなくす)
  • ③唾吐きが得にならない設計:吐いても「要求が通る」「手洗いが消える」にならないよう、落ち着いてから同じ順序へ戻す

加えて、唾吐きが出る前兆(口元・一歩下がる・視線固定)が出た段階で、
「先に距離を取る」「先に見通しを提示する」ことで、行動が起きる前に落とせる可能性が上がる。

このケースから見える支援の視点

  • 唾吐きは「汚い行動」ではなく、機能がある行動として扱う
  • 接近・注意・拭き取りが、結果的に唾吐きを強化することがある
  • 止めるより先に、距離・導線・見通しを設計する
  • 「吐いて得になる」構造を断ち、落ち着いたら同じ順序に戻す

関連リンク

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