要求が通らず叩く行動|他害の支援事例(発語なし・重度知的障害)

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具体的な支援の組み立て方や現場での対応手順については、以下の専門ページで詳しく解説しています。
強度行動障害の支援方法

【ケーススタディ】
本記事では、発達特性のある児童に見られた行動をもとに、前兆・背景・支援の判断・結果を整理したケーススタディを紹介します。
※個人が特定されないよう、年齢以外の一部情報は抽象化・調整しています。

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要求が通らず叩く行動|他害の支援事例(発達障害)

この記事では「他害(叩く行動)」の支援事例を通して、強度行動障害の支援方法で重要になる“要求の見える化”と“遮断時の設計”の視点を整理します。

「叩いた」だけで終わらせない。前兆→分析→判断→支援→結果→再発予防まで、現場の視点で整理します。


児童の基本情報(個人特定を避けた概要)

  • 年齢:小学1年生
  • 診断:自閉スペクトラム症(ASD)
  • 知的特性:重度知的障害
  • 言語:発語なし(要求は身振り・引っ張る・提示物への接触が中心)
  • 感覚特性:音・人の動きに敏感/混雑で負荷が上がりやすい
  • 行動特性:要求が通らない・通じない場面で、叩く/押すなどの他害行動が強く出ることがある

支援歴

当施設の利用歴は約10か月。利用当初から要求の伝達が難しく、希望が通らない場面で身体緊張が急上昇しやすかった。
落ち着いている時は好きな遊びに集中できるが、要求が通じない/中断される場面では他害行動が出やすい。
支援者が早期に前兆へ介入できた日は落ち着きやすく、介入が遅れると行動が連鎖しやすい傾向がある。

環境条件

自由遊びの時間。複数の児童が同室で遊んでおり、室内は普段より声と動きが多かった。
Aくんはお気に入りの玩具(回す・はめる等)で遊んでいたが、近くの棚にある別の玩具を取りたい様子が見られた。

ケース(何が起きたか)

Aくんは棚の方へ行き、支援者の手を引いて玩具の方向へ誘導しようとした。
しかし支援者が状況把握のため一度止め、「待ってね」と短く伝えた直後、近くにいた児童の腕を叩く行動が出た。

叩かれた児童に大きな怪我はなかったが、周囲が驚き、室内の動きが増えて刺激量が上がる場面となった。

前兆(行動前の変化)

行動が起きる直前、次の変化が見られていた。

  • 支援者の手を強く引く/引き戻す
  • 呼吸が早くなる・身体が反る
  • 視線が一点に固定され、周囲の声掛けが入りにくい
  • 同じ動きを反復(その場で足踏み・玩具を強く叩く)
  • 眉間にしわ・口元が固くなる
  • 近くの人との距離が急に近くなる(ぶつかるように移動)

この段階は「要求の高まり+通じない不安+刺激過多」が重なり、“爆発の直前”として現れやすい。

分析(なぜ行動が起きたのか)

今回の主因は、要求が通じない(または保留された)ことへの急激なフラストレーションである可能性が高い。
Aくんは発語がなく、要求が伝わらない時に“代替手段”が乏しいため、行動が「叩く」という強い形で出やすい。

また、叩いた相手は“狙った対象”というより、直近にいた児童であり、攻撃意図よりも状態の外在化としての他害が疑われる。
さらに室内が賑やかで刺激量が高かったため、要求が保留された瞬間に耐えられる余裕がなく、反応が急峻になったと考えられる。

このケースでは「叩く=悪意」ではなく、要求伝達困難+刺激過多+保留の瞬間が引き金になった“状態の崩れ”として捉えるのが妥当である。

支援の選択肢

  • 叱責して行動を止める
  • 身体を強く制止する
  • 要求をすぐ叶える(要求の即時充足)
  • 要求の見える化+保留の設計(待てる形にする)

支援の判断理由(なぜそれを選んだか/選ばなかったか)

叱責や強い制止は一時的に止まることがあっても、Aくんの場合は理解が届かない状態で刺激だけが増えるため、興奮が上乗せされやすい。
また要求を毎回即時に叶えると、行動(叩く)が要求達成に結びつき、誤学習が固定化するリスクがある。

そのため今回は、要求を否定するのではなく、「今は無理」ではなく「こうすれば通る」へ変換し、
要求を通すルート(代替行動)を提示した上で、待てる時間と環境を設計する方針を選択した。

実施した支援

  • 叩かれた児童を安全に離し、Aくんとの距離を確保(刺激を減らす)
  • 支援者は短い言葉+ジェスチャーで「ストップ」「待つ」を提示(長い説明はしない)
  • 要求対象を写真(または実物)で提示し、「これ?」「OK」の形で要求を確定
  • 「待つ」を成立させるため、待ちの目印(タイマー/カード)を提示し、短時間で成功体験を作る
  • 成功後に要求を通す(叩いた直後ではなく、落ち着きが戻ってから)

結果

距離を確保し刺激を下げたことで、数分で身体緊張が低下した。
要求対象を写真で確定し、待ちの目印を提示すると、叩く行動は再発せず、落ち着いた状態で要求を受け取ることができた。

再発予防(次回対応)

今後は要求が高まりそうな場面で、先に「要求の提示手段(写真・カード)」を用意し、通るルートを明確化する。
また「待つ」が必要な場面は、保留の言葉だけで終わらせず、待ちの目印+短い成功で成立させる。
室内が賑やかな日は、要求が出た時点で早めに刺激を下げ、近距離の接触が起きない配置に調整する。

このケースから見える支援の視点

  • 他害を“性格”ではなく、要求伝達困難+状態崩れとして捉える
  • 「ダメ」で終わらせず、要求が通るルート(代替行動)を先に設計する
  • 叩いた直後に要求を通さず、誤学習を作らないタイミングで支援を組む

関連リンク

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