
▶ 強度行動障害の支援方法
【ケーススタディ】
本記事では、発達特性のある児童に見られた行動をもとに、前兆・背景・支援の判断・結果を整理したケーススタディを紹介します。
※個人が特定されないよう、年齢以外の一部情報は抽象化・調整しています。
誤学習ケース②|注意で他害が強化された支援ケース(小学3年)
他害行動が出たとき、支援者は反射的に「止める」関わりをしやすい。
しかし、止め方によっては他害が「増える」「強くなる」ことがある。
本ケースは、注意・叱責中心の対応が結果として誤学習(望ましくない学習)を作ってしまった事例である。
強度行動障害を含む支援の基本原則(環境調整・前兆把握・結果操作)については
強度行動障害の支援方法
に整理しています。
児童の基本情報(個人特定を避けた概要)
- 年齢:小学3年生
- 診断:自閉スペクトラム症(ASD)
- 知的特性:中度知的障害
- 言語:短文レベル(要求は出せるが、混乱時は崩れる)
- 特性:変化・待機・他児接近でストレスが上がりやすい
- 行動:押す・叩く等の他害が、場面により出現
支援歴
利用開始当初から他害が見られたが、環境が整っている場面では安定して活動できる時間も増えていた。
一方で「集団が密になる」「待つ」「自分の順番が来ない」場面では、急に叩く行動が出ることがあった。
環境条件
放課後の自由遊び〜活動切り替えの時間帯。
室内は複数の児童の声や動きが重なり、支援者も「片付け・次の準備・声掛け」を同時に行っていた。
児童同士の距離が近く、通路も混みやすい状況だった。
ケース(何が起きたか)
対象児は床で玩具遊びをしていた。近くを別児が通過した瞬間、対象児は相手の腕を叩いた。
支援者はすぐに近づき、強めの声で「だめ!叩かない!」と注意し、対象児の手を止めた。
その直後、対象児は一度止まったが、別児が再び近くを通ったタイミングでまた叩いた。
支援者が再度注意し、対象児を少し離れた場所へ誘導した。
ここから数日〜数週間の経過で、同様の場面(通路、順番、切り替え)での叩きが増え、
「注意→一瞬止まる→すぐ再発」というパターンが固定化し始めた。
前兆(行動前の変化)
叩く直前に、次の変化が繰り返し見られていた。
- 視線が一点に固定(相手の手元/通路の動き)
- 身体の動きが止まる(フリーズ)
- 呼吸が浅くなる・口が固く閉じる
- 玩具を強く握る/指先が落ち着かない
これらは「怒り」よりも、刺激処理が追いつかず緊張が上がっているサインとして捉えた方が説明がつく場面が多かった。
分析(なぜ行動が起きたのか)
1) まず「行動の機能」を分解する
他害は「性格」ではなく、文脈の中で起きる機能的な行動である。
本ケースでは、叩く行動は主に次の機能が絡んでいた可能性が高い。
- 回避/逃避(Escape):人の接近・通路の混雑・切り替えの要求から逃れたい
- 感覚調整(Sensory):緊張が高いときに「打撃刺激」で一瞬切り替わる
- 社会的結果(Attention):注意・介入が即時に入ることで、結果として強化される
2) 誤学習(ミスラーニング)が起きる典型パターン
このケースの核心はここ。
支援者は「叩くのを止める」ために注意したが、その注意が結果として行動を強化してしまった可能性がある。
誤学習のメカニズム(現場で起きやすい形)
- 叩く(B)
- 支援者が即時に近づく/強い声/身体介入(C)
- その瞬間、周囲の刺激(人の接近・混雑・要求)がいったん止まる/場が切り替わる(C)
- 結果として「叩くと世界が変わる」を学習する
ここで重要なのは、支援者が「注意」したこと自体ではない。
注意によって何が起きたか(結果)が学習を作る。
3) 「注意」そのものより危険なのは“連鎖”
本ケースでは、注意が次の連鎖を生んだ可能性が高い。
- 支援者の強い声・接近 → 追加刺激(不快)で緊張がさらに上がる
- 混乱時は言語理解が落ちる → 説明が届かず、止められた経験だけが残る
- 叩いた後に「要求が通る」「場が変わる」経験が積み上がる
つまり、支援者は「止めた」つもりでも、本人の学習は
叩く=状況を動かす最短手段
へ寄っていく。
支援の選択肢(この場面で取り得た手)
- 叱責・注意で止める(短期停止はするが、誤学習リスクが高い)
- 身体制止で止める(安全確保はできるが、強化・反発・対立が起きやすい)
- 前兆段階で環境調整(密度を下げる/導線を変える)
- 代替行動を教える(叩く代わりの“通す手段”を作る)
- 結果操作(叩いても得をしない/別の行動で得をする)
支援の判断理由(なぜそれを選ぶべきだったか)
他害が出た瞬間の安全確保は最優先。ここは揺らがない。
ただし「安全確保」と「学習を作る設計」は別である。
本ケースでの失敗は、安全確保の手段が、そのまま学習(強化)になった点にある。
したがって再設計の方針は次の2本立てになる。
- ①前兆段階で、叩く必要がない環境にする(予防)
- ②叩かなくても通る手段を用意し、そちらを強化する(置換)
実施した再設計(誤学習をほどくための設計)
A)前兆で介入する:密度と導線の再設計
- 混みやすい通路を避ける配置に変更(通る場所を固定)
- 切り替えタイミングで対象児の近くを人が横切らないよう調整
- 前兆(視線固定・フリーズ)を合図に、静かな端へ誘導して“先に整える”
B)代替行動を作る:「叩く」の代わりに“通す”
叩く行動は、本人にとっては「困りごとへの対処」になっていることがある。
ならば、同じ目的を満たす代替行動を作る。
- 「ストップ」カード/ジェスチャーで「近い・しんどい」を伝える
- 支援者を呼ぶ合図(タッチ、カード提示)を統一
- 混乱時は言語ではなく“短い合図”で通す
C)結果操作:叩いても得しない/別の行動で得する
ここが専門性の核。誤学習をほどくには結果の設計が必要。
- 叩いた直後に「説教」や「長い説明」をしない(注意が強化になり得る)
- 安全確保のみ短く実施 → それ以上の反応は増やさない
- 代替行動(カード・合図)が出た瞬間に、すぐ環境調整・要求の整理・称賛を入れる
ポイントは、叩いた行動に「価値ある結果」が乗らない状態を作りつつ、
代替行動には「価値ある結果」が確実に乗るようにすること。
結果(どう変わったか)
再設計後、前兆段階での調整が増えたことで、叩く頻度は徐々に減少した。
特に「視線固定→フリーズ」の段階で支援者が動けた日は、叩くまで至らない場面が増えた。
また、合図カードの使用が定着し始めると、混雑・接近の場面で叩く代わりにカードを出す行動が出現した。
完全消失ではないが、行動は「危険な形」から「伝える形」へ移行しつつある。
再発予防(次回対応)
- 前兆チェックをチームで共通化(誰が見ても同じ合図)
- 切り替え・通路・順番など“高リスク場面”は先に環境を組む
- 代替行動(カード・合図)を「毎回同じ結果」で強化する
- 叩いた後の反応は最小化し、学習を乗せない
このケースから見える支援の視点(要点)
- 「止める支援」が、結果として誤学習を作ることがある
- 行動は性格ではなく、文脈と結果で維持される
- 解決は「叱る」ではなく、予防(前兆)× 代替行動 × 結果操作の設計
- 安全確保と学習設計は分けて考える
関連リンク
- 体系的な支援方法:強度行動障害の支援方法
- ふきのこの考え方:ふきのこについて
- ケース一覧:強度行動障害の事例・ケーススタディ
強度行動障害の支援方法を体系的にまとめています

コメント