
▶ 強度行動障害の支援方法
エレベーターや階段の順番に強くこだわる子どもをどう支えるか|移動の流れが崩れると不安定になる子のケーススタディ
エレベーターに乗る順番が決まっている。
階段はいつもの側から上がりたい。
ボタンは自分が押したい。
誰かに先を越されると急に崩れる。
こうした相談は少なくありません。
保護者や支援者の方からすると、
「たかが順番で、なぜここまで荒れるのか」
「毎回同じことで止まってしまう」
「我慢させるべきなのか、合わせるべきなのか分からない」
と感じやすいテーマです。
ですが実際には、
このタイプの子は
順番にわがままを言っているのではなく、
移動の流れを自分の中で決めていて、それが崩れると一気に処理が落ちる
ことが少なくありません。
この記事では、
エレベーターや階段の順番に強くこだわる子どもをどう見るか、どう支えるか
を、ケーススタディとして整理します。
ケース|エレベーターの順番が変わるだけで大きく崩れる
小学1年生の男の子。
自閉スペクトラム症の診断があり、
外出や施設内の移動では一定のルーティンがありました。
普段は比較的落ち着いて歩けます。
移動自体が苦手というわけではなく、
いつもの流れなら大きく崩れずに動けることが多い子でした。
ところが、
エレベーターや階段になると様子が変わります。
- エレベーターのボタンは自分が押したい
- 先に乗る人の順番が決まっている
- 降りる時も自分が最初でないと嫌がる
- 階段はいつもの側から上がりたい
- 他児やきょうだいが先に動くと怒る、泣く、止まる
保護者は
「移動のたびにこれで止まる」
「たった順番のことなのに、毎回大ごとになる」
と疲れ切っていました。
ですが丁寧に見ていくと、
この子は順番そのものに固執しているだけではなく、
“こう動けば大丈夫”という移動の見通しが崩れることに耐えにくかった
のです。
「ただのこだわり」でまとめない
このテーマで起こりやすい読み違いは、
- 順番にうるさいだけだ
- わがままを通そうとしている
- 一度我慢させれば分かる
- 小さいことに付き合いすぎると悪化する
という見方です。
でも実際には、
このタイプの子にとって順番は、
単なる好き嫌いではなく
移動を成立させるための見通しや安心材料
になっていることがあります。
たとえば、
- 誰が先に動くか
- どこに立つか
- どのタイミングで入るか
- どうやって降りるか
が本人の中で一つの流れとして組み上がっているのです。
だからそこが崩れると、
ただ不満なのではなく、
移動全体の予測が崩れて不安が一気に上がる
ことがあります。
まず見るべきなのは「順番へのこだわり」ではなく「何が支えになっているか」
このケースでは、
「順番を譲れないこと」だけを見ても支援は進みません。
本当に見るべきなのは、
- どの順番が大事なのか
- ボタン、乗る順、降りる順のどこに反応しているのか
- 誰が相手だと強く出るのか
- 急いでいる時ほど悪化するのか
- エレベーターと階段で違いがあるのか
です。
たとえば、
- ボタンを押せない時だけ強い
- きょうだい相手だと特に強い
- 集団移動で順番が読めない時に悪化する
- 初めての場所ではそこまで出ないが、いつもの場所で強い
など、
反応にはかなり具体的な偏りがあります。
エレベーターや階段の順番にこだわる子によくある4つの背景
1. 移動の見通しを順番で保っている
順番そのものが、移動の予測を支える柱になっている子がいます。
そこが崩れると、次の動きが一気に分からなくなります。
2. 「自分がやる」が安心材料になっている
ボタンを押す、先に動くなど、
自分が一部を担うこと自体が安心につながっている子もいます。
3. 他者の動きが割り込むことに弱い
きょうだい、他児、大人が先に動くことが、
単なる順番の問題ではなく、
予測不能な割り込みとして強く入ることがあります。
4. 急ぎや集団場面で負荷が上がりやすい
急いでいる時や人数が多い時は、
ただでさえ処理が重くなります。
そこで順番まで崩れると、一気に不安定になりやすいです。
支援で最初にやること|順番を正す前に、移動を通しやすくする
このケースでまず必要なのは、
「順番なんてどうでもいい」と教えることではありません。
先にやるべきなのは、
移動全体を通しやすくすること
です。
たとえば、
- 事前に順番を短く伝える
- 今日は誰が押すかを先に決める
- 集団移動の前に個別で予告する
- 崩れやすい場面では役割を一つ残す
- 急ぎ場面では最初から別ルートを考える
などです。
大事なのは、
順番へのこだわりを力で折ることではなく、
移動の見通しを別の形で支えること
です。
有効だった具体的な工夫
1. 先に「今日はどうするか」を決める
エレベーター前で初めて決めるより、
移動前に
「今日は先生が押すよ」「今日は一緒に乗るよ」
と短く伝える方が入りやすい子がいます。
2. 全部は譲らなくても、一つ役割を残す
ボタンは押せなくても、
ドアの前に立つ、降りたら右に曲がるなど、
一つでも本人の役割があると通りやすいことがあります。
3. 崩れやすい場面では人数を絞る
きょうだいや他児が多いと、
順番の処理が難しくなります。
必要なら一時的に移動を分ける方が安定することがあります。
4. 崩れた直後に説得を重ねない
その場で長く説明するほど入りにくくなる子もいます。
短く区切って、次の一歩だけを通す方が戻りやすいことがあります。
やってはいけない関わり
- 「順番くらい我慢して」と繰り返す
- その場の勢いで急にルールを変える
- 毎回違う対応をする
- きょうだいや他児と比較する
- 崩れてから長く説教する
- 急ぎ場面で無理に押し切る
これらは一見正しそうでも、
本人にとっては
移動そのものが危険で読めない場面
として強化されやすいです。
家庭と支援者で共有したいこと
このケースも、
家庭だけで抱えず、
学校や放課後等デイサービス、支援者と共有した方がいいです。
共有したいのは、
「順番にこだわります」だけではありません。
- 何の順番に反応しやすいか
- どの相手だと強く出るか
- 何を予告すると入りやすいか
- 一つ役割があると通りやすいか
- 少しでも戻りやすい条件は何か
まで共有できると、
単なるこだわり対応ではなく、
移動支援の設計として見えてきます。
記録で残すべきこと
このケースも、
感覚ではなく記録が大事です。
残すべきなのは、
「また順番で荒れた」だけではありません。
- エレベーターか階段か
- 何の順番だったか
- 誰が相手だったか
- 予告はあったか
- 急ぎ場面だったか
- 何で少し戻れたか
ここまで残ると、
「順番にこだわる子」ではなく、
どの移動条件で不安が上がるのか
が見えてきます。
ふきのこで大切にしている視点
ふきのこでは、
エレベーターや階段の順番に強くこだわる子を
「細かいこだわりが強すぎる子」とだけは見ません。
そうではなく、
- 何が安心材料になっているのか
- どの順番が見通しを支えているのか
- 何が崩れると一気に負荷が上がるのか
- どうすれば移動全体を通しやすくできるのか
を見ます。
大切なのは、
順番へのこだわりを力で崩すことではなく、
移動の見通しを別の形でも支えられるようにすること
です。
ふきのこの支援の考え方や、日々どんな視点で子どもたちを見ているかは、
こちらの記事でまとめています。
ふきのことは|支援の考え方と大切にしていること
また、強度行動障害の支援全体像や、
爆発前・爆発中・回復期を含めた支援方法の整理は、
こちらの記事で詳しくまとめています。
強度行動障害の支援方法|爆発前・爆発中・回復期の具体対応と判断設計
似た構造として、
好きな道順が崩れた時に不安定になるケースは
好きな道順が崩れると荒れる子どもをどう支えるか|見通しの崩れに弱い子のケーススタディ
でも整理しています。
まとめ
エレベーターや階段の順番に強くこだわる子どもは、
単なるわがままではなく、
移動の流れや見通しを順番で支えていることがあります。
大切なのは、
「順番くらいで」と片づけるのではなく、
どの順番が支えになっていて、何が崩れると負荷が上がるのか
を見つけることです。
その上で、
事前に予告する、
役割を残す、
人数や流れを調整する、
移動全体を通しやすくする。
こうした支援に変わるだけで、
順番場面での崩れ方はかなり変わってきます。
順番に強くこだわることは、
保護者や支援者の失敗ではなく、
移動支援の設計を組み直すサインとして見ることが大切です。
よくある質問
順番にこだわるのは、ただのわがままですか?
そうとは限りません。
本人にとっては移動の見通しや安心を支える大事な要素になっていることがあります。
順番は我慢させた方がいいですか?
一律には言えません。
まずは何が支えになっているのかを見て、別の形で見通しを支えられるかを考えることが大切です。
ボタンを押したいこだわりも同じですか?
同じ構造のことがあります。
ボタンを押すこと自体が、移動の安心材料や役割になっている場合があります。
支援者とは何を共有するといいですか?
何の順番に反応しやすいか、どんな予告で入りやすいか、少しでも通りやすい条件は何かまで共有できると支援が具体的になります。
強度行動障害の支援方法を体系的にまとめています

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