
▶ 強度行動障害の支援方法
口頭指示なら動けるのに絵カードを出すと崩れる子どもをどう支えるか|視覚支援が逆効果になる子のケーススタディ
口頭での声かけなら、ある程度動ける。
短い言葉なら入る。
普段の流れの中では大きく崩れない。
でも、絵カードや写真カードを出した瞬間に拒否が強くなる。
カードを見せると怒る。
伏せる、払う、投げる、逃げる。
こうした相談は少なくありません。
視覚支援は一般的に有効と言われることが多いため、
保護者や支援者ほど
「絵カードの方が分かりやすいはずなのに、なぜ崩れるのか」
「やり方が悪いのか」
「この子には支援が通らないのか」
と戸惑いやすいテーマです。
ですが実際には、
このタイプの子は
視覚支援が理解できないのではなく、
絵カードの出され方そのものが負荷になっている
ことがあります。
この記事では、
口頭指示なら動けるのに絵カードを出すと崩れる子どもをどう見るか、どう支えるか
を、ケーススタディとして整理します。
ケース|普段の声かけでは動けるのに、カード提示だけ強く拒否する
年長の男の子。
自閉スペクトラム症の診断があり、
日常生活の中では短い口頭指示である程度動ける場面がありました。
たとえば、
- 「靴はくよ」
- 「座ろう」
- 「手を洗うよ」
といった短い声かけには、
波はあるものの比較的入りやすい様子がありました。
ところが、
支援の一環として写真カードや絵カードを使い始めると様子が変わりました。
- カードを見せると顔をそらす
- カードを払いのける
- 「いや」と強く拒否する
- その後の活動全体まで崩れる
保護者は
「視覚支援の方が分かりやすいと思っていた」
「言葉では通るのに、カードで悪化する理由が分からない」
と戸惑っていました。
ですが丁寧に見ていくと、
この子は絵カードそのものが分からないのではなく、
“カードを出されること”が、強い指示・固定・圧として入っていた
のです。
「視覚支援が合わない子」で雑にまとめない
このテーマで起こりやすい読み違いは、
- この子は視覚優位ではないのだろう
- カードの理解力が低いのだろう
- 支援に慣れていないだけだろう
- もっと徹底すれば慣れるだろう
という見方です。
でも実際には、
問題は「絵カードが理解できるかどうか」ではなく、
どんな形で提示され、本人にどう入っているか
にあることが少なくありません。
たとえば、
- 口頭なら流せるが、カードは固定されて逃げにくい
- 目の前に突きつけられる感じが強い
- 過去にカード提示と強い要求が結びついている
- 写真や絵を見ること自体がしんどい
- 「今これをやれ」が視覚で明確化されることで逆に負荷が上がる
などです。
つまり、
問題は視覚支援そのものではなく、
その子にとって視覚支援が安心材料ではなく圧になっていること
かもしれないのです。
まず見るべきなのは「カードを嫌がること」ではなく「カードの何が重いのか」
このケースでは、
「絵カードを嫌がった」という結果だけでは支援は進みません。
本当に見るべきなのは、
- カードのどんな提示で崩れるのか
- 誰が出すと強くなるのか
- 活動前か、切り替え時か
- 口頭と何が違うのか
- カードを見せた後に何が起きると本人が学習しているのか
です。
たとえば、
- 急に顔の前に出されると嫌がる
- 切り替えを迫るカードだと強く崩れる
- 選択カードは見られるのに指示カードは拒否する
- 母親が出すと強くなるが、支援者だとまだ入る
など、
かなり具体的な偏りがあります。
絵カードで崩れやすい子によくある4つの背景
1. 視覚化されることで逃げ場がなくなる
口頭指示は流したり聞き流したりできますが、
カードは目に見える形で固定されます。
その固定感がしんどい子がいます。
2. カード提示が「強制」の合図になっている
過去にカード提示のあと必ず切り替えや要求が来ていた子は、
カードそのものをプレッシャーとして受け取ることがあります。
3. 写真や絵へのこだわり・違和感がある
写真の情報量が多すぎる、
絵が本人のイメージと違う、
視覚情報への独特な敏感さがあるなど、
内容そのものが負荷になることもあります。
4. 本人にとっては口頭の方が関係の中で処理しやすい
口頭は相手の表情や声の調子と一緒に入ります。
人との関係の中で受け取る方が安心できる子もいます。
支援で最初にやること|「カードを使う」ことを目的にしない
このケースでまず必要なのは、
何としても絵カードに慣れさせることではありません。
先にやるべきなのは、
その子にとって何が通りやすいかを見直すこと
です。
たとえば、
- 口頭だけの方が入るなら口頭を中心にする
- カード提示の距離や出し方を変える
- 選択場面だけカードを使う
- 指示カードではなく予定表の形にする
- まずカードを見るだけで終わる段階を作る
などです。
大事なのは、
支援方法に子どもを合わせることではなく、
子どもに合う支援方法に調整すること
です。
有効だった具体的な工夫
1. 顔の前に突きつけない
カードを目の前に出すと圧が強くなる子は少なくありません。
机に置く、横に置く、少し離して見せるだけでも違うことがあります。
2. 指示カードより、予定の見通しとして使う
「今これをやれ」ではなく、
「今日はこういう流れ」の形にすると入りやすい子がいます。
3. 選択の場面から使う
やらされるカードは拒否しても、
選べるカードは見られる子がいます。
まずは本人が使って得をする場面から始める方が入りやすいです。
4. 口頭+視覚の比率を調整する
口頭だけ、視覚だけ、ではなく、
短い口頭の補助として軽く視覚を添えるくらいがちょうどいい子もいます。
やってはいけない関わり
- 「視覚支援は有効なはず」と決めつける
- 崩れても同じ出し方を続ける
- カードを顔の前に急に出す
- カード拒否を反抗とみなす
- カード提示のたびに強い要求を重ねる
- 口頭で通るのに無理に全部カード化する
これらは一見支援的に見えても、
本人にとっては
視覚支援=しんどい要求の合図
として強化されやすいです。
家庭と支援者で共有したいこと
このケースも、
家庭だけで抱えず、
学校や放課後等デイサービス、支援者と共有した方がいいです。
共有したいのは、
「絵カードが嫌いです」だけではありません。
- どんなカードなら見られるか
- どんな提示の仕方で崩れるか
- 口頭ではどこまで通るか
- 選択と指示で差があるか
- 少しでも入りやすい支援の組み方は何か
まで共有できると、
視覚支援を使うか使わないかではなく、
どう組み替えるかの議論がしやすくなります。
記録で残すべきこと
このケースも、
感覚ではなく記録が大事です。
残すべきなのは、
「カードでまた崩れた」だけではありません。
- どの場面だったか
- どの種類のカードだったか
- 誰がどう提示したか
- 口頭ならどうだったか
- 何で少し下がったか
- カード提示のあと何を求めたか
ここまで残ると、
「絵カードが合わない子」ではなく、
どの視覚支援の形が重くなっているのか
が見えてきます。
ふきのこで大切にしている視点
ふきのこでは、
口頭指示なら動けるのに絵カードを出すと崩れる子を
「支援が入らない子」とは見ません。
そうではなく、
- 本人は何なら処理しやすいのか
- カードの何が圧になっているのか
- 視覚支援をどう変えれば安心材料になるのか
- 方法ではなく見立てがずれていないか
を見ます。
大切なのは、
視覚支援を正解として押し込むことではなく、
その子にとって通る形に支援を調整すること
です。
ふきのこの支援の考え方や、日々どんな視点で子どもたちを見ているかは、
こちらの記事でまとめています。
ふきのことは|支援の考え方と大切にしていること
また、強度行動障害の支援全体像や、
爆発前・爆発中・回復期を含めた支援方法の整理は、
こちらの記事で詳しくまとめています。
強度行動障害の支援方法|爆発前・爆発中・回復期の具体対応と判断設計
似た構造として、
トイレ誘導の声かけでだけ拒否が強くなるケースは
トイレ誘導の声かけでだけ拒否が強くなる子どもをどう支えるか|関わり方で崩れる子のケーススタディ
でも整理しています。
まとめ
口頭指示なら動けるのに絵カードを出すと崩れる子どもは、
視覚支援が理解できないのではなく、
カードの出され方や固定感、過去の経験との結びつきによって、
視覚支援そのものが負荷になっていることがあります。
大切なのは、
「視覚支援は良いものだから慣れさせる」と考えることではなく、
その子にとって何が通り、何が圧になっているのか
を見つけることです。
その上で、
提示の仕方を変える、
用途を変える、
選択場面から使う、
口頭との組み合わせを調整する。
こうした支援に変わるだけで、
絵カードへの拒否はかなり変わってきます。
絵カードで崩れることは、
支援失敗の証拠ではなく、
支援方法の設計を組み直すサインとして見ることが大切です。
よくある質問
絵カードを嫌がるのは、理解できていないからですか?
そうとは限りません。
理解の問題より、固定感や圧として入っている可能性があります。
視覚支援は一般的に有効なのに、使わない方がいいのですか?
使うか使わないかではなく、どう使うかが大切です。
その子に合わない形なら逆効果になることがあります。
口頭で通るなら、カードはやめてもいいですか?
無理に全部カード化する必要はありません。
口頭が通るなら、それを基盤にして必要な部分だけ調整する方が自然です。
支援者とは何を共有するといいですか?
どのカードで崩れるか、提示の仕方、口頭との違い、少しでも入りやすい条件まで共有できると支援が具体的になります。
強度行動障害の支援方法を体系的にまとめています

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