
強度行動障害の支援手順書
行動の上昇過程を変える「構造設計」
多くの強度行動障害支援は「爆発後対応」に偏っている。
しかし本稿が扱うのは、爆発を止める方法ではない。
行動に至る上昇過程そのものを変える設計である。
強度行動障害の支援を体系的に理解したい方は、
強度行動障害の支援方法まとめ
をご覧ください。
第1章 強度行動障害の支援手順書とは何か
支援手順書は、爆発時の対応マニュアルではない。
本質は、行動に至る上昇過程を変える設計図である。
爆発は突然起こらない。突然「見える」だけである。
・視線の変化
・呼吸の変化
・筋緊張の上昇
・課題負荷の蓄積
・環境刺激の増加
これらが重なり、段階的に上昇する。
支援手順書の役割は、爆発を止めることではない。
上昇を早期で変えることである。
爆発後対応型はなぜ機能しないか
- 叩いたら制止する
- 暴れたら別室へ
- 落ち着くまで待機
これは消火活動である。
火がつく構造は変わっていない。
支援計画との違い
個別支援計画は方向性を示す。
支援手順書は、明日の10時に誰が何をするかを示す。
声量は何%か。距離は何mか。どの段階で課題を止めるのか。
計画を運用可能に変換する装置が支援手順書である。
第2章 なぜ多くの支援手順書は機能しないのか
1. 爆発後しか扱っていない
結果対応では設計にならない。
2. 抽象語が多すぎる
- 配慮する
- 様子を見る
- 適切に声かけ
これでは職員ごとの判断が揃わない。
3. 分析と接続していない
ABCを書いても、手順に変換されていない。
4. フェーズ区分がない
- 平常
- 前兆
- 上昇
- 爆発
- 回復
この設計がない手順書は常に最大対応になる。
強度行動障害は特殊なのか?
強度行動障害は特別な子どもだけのものではない。
負荷が自己調整能力を超えた状態である。
環境と支援の設計不一致が続けば、誰にでも起こりうる構造である。
第3章 分析をどう支援手順書に落とすのか
Step1:スキャッタープロット
時間帯と場面のパターンを見る。
- 14:30〜15:00に集中
- 切替直後に増加
→ 14:20に負荷を分解する。
Step2:ABC分析
A:課題提示
B:叩く
C:課題が止まる
→ 結果構造を変える。
Step3:氷山モデル
- 睡眠不足
- 感覚過敏
- 失敗経験の蓄積
→ 背景を具体行動へ変換する。
第4章 フェーズ別支援手順(平常〜前兆〜上昇〜爆発〜回復)
強度行動障害支援は爆発対応ではなく、段階設計である。
フェーズ1:平常期
- 視線安定
- 筋緊張低い
- 呼吸安定
- 歩調が合う
支援:
- 成功体験を積む
- 負荷を小分けにする
- 予告提示を行う
- 刺激を過密にしない
禁止:急な予定変更・過剰な賞賛
フェーズ2:前兆期(第一層)
- 目を避ける
- 一点凝視
- 瞬き増加
- 視線が鋭くなる
支援:
- 声量を50%に下げる
- 情報量を減らす
- 課題を即分解
- 成功で終了
禁止:説得・質問増加・注意
フェーズ3:上昇期(第二層)
- 筋緊張上昇
- 触れられるのを拒否
- 俯いて固まる
- 力が強くなる
支援:
- 課題停止
- 距離1.5m確保
- 指示を単語化
- 視線を合わせにいかない
禁止:身体接触・論理説明
フェーズ4:爆発期
- 叩く
- 蹴る
- 物を投げる
- 大声
支援:
- 安全確保最優先
- 言語停止
- 刺激遮断
- 観察継続
禁止:我慢の教育・叱責・多人数対応
フェーズ5:回復期
- 呼吸落ち着く
- 視線戻る
- 身体の力が抜ける
支援:
- 最小限の言葉
- 成功行動へ誘導
- 安心提供
禁止:説教・長時間振り返り
第5章 支援手順書テンプレート
① 基本情報
| 対象児童名 | |
| 作成日 | |
| 最終更新日 | |
| 主担当 |
② 行動の定義
叩く=拳で身体に接触する行為
蹴る=足を振り上げ接触する行為
③ 前兆層別リスト
第一層(視線)/第二層(身体)/第三層(行動)
④ フェーズ別介入一覧
| フェーズ | 介入 | 禁止 |
|---|---|---|
| 平常 | 成功体験・予告 | 急な変更 |
| 前兆 | 声量50%・課題分解 | 説得 |
| 上昇 | 距離確保・課題停止 | 接触 |
| 爆発 | 安全確保・言語停止 | 教育 |
| 回復 | 成功誘導 | 説教 |
第6章 支援手順書を機能させる運用設計
共有
- 支援前に確認
- 印刷常設
- 新人研修必須説明
更新
- 月1回見直し
- 爆発3回で再設計
- 更新履歴を残す
判断統一
- フェーズを口頭共有
- 層で報告する
- 指揮系統明確化
第7章 よくある失敗パターンと修正ポイント
失敗1:爆発だけを問題視する
爆発は結果である。
前兆層を拾えていない設計の問題である。
修正:
- 第一層(視線)観察を最優先にする
- 声量と距離を数値化する
失敗2:職員によって対応が違う
抽象語中心の手順書は運用できない。
修正:
- 「適切に」などの言葉を削除
- 具体行動に置き換える
失敗3:記録と接続していない
記録は残るが、設計が変わらない。
修正:
- 爆発3回で必ず再設計
- 層分析を更新
第8章 強度行動障害は特殊ではないという構造理解
強度行動障害は、特別な子どもだけに起こるものではない。
負荷が自己調整能力を超えた状態である。
環境刺激の増加、失敗経験の蓄積、見通しの欠如。
これらが積み重なり、調整が破綻する。
この構造は誰にでも起こりうる。
違いは頻度と強度である。
だからこそ必要なのは管理ではない
抑える支援ではなく、
上昇を設計で変える支援。
支援手順書は拘束のための文書ではない。
安全を守りながら、
本人の自己調整力を育てる設計図である。
まとめ(設計の核)
- 爆発は結果である
- 前兆層を拾う
- フェーズ別に設計する
- 抽象語を排除する
- 記録と再設計を繰り返す
第4章 フェーズ別支援手順の具体化
強度行動障害支援では、
「爆発」だけを扱うと常に後手になる。
行動は段階的に上昇する。
よって支援も段階で設計する。
フェーズ1:平常期
状態
- 視線安定
- 筋緊張低い
- 呼吸安定
- 歩調が合う
支援者が行うこと
- 成功経験を積ませる
- 負荷を小分けにする
- 予告を入れる
- 環境刺激を過剰にしない
やってはいけないこと
- 急な予定変更
- 成功後の過剰な賞賛
- 過密スケジュール
平常期は貯金の時間。
安定を積む。
フェーズ2:前兆期(第一層)
兆候
- 視線が鋭くなる
- 目を避ける
- キョロキョロ増加
- 瞬き増加
支援者が行うこと
- 声量を50%に下げる
- 情報量を減らす
- 課題を即分解
- 成功で終了させる
してはいけないこと
- 説得する
- 質問を増やす
- 注意する
ここが最重要ポイント。
ここで止められると爆発率は下がる。
フェーズ3:上昇期(第二層)
兆候
- 筋緊張上昇
- 触れられるのを拒否
- 俯いて固まる
- 力が強くなる
支援者が行うこと
- 課題停止
- 距離1.5m確保
- 指示を単語化
- 視線を合わせに行かない
してはいけないこと
- 身体接触
- 説得の継続
- 論理的説明
上昇期は教育時間ではない。
刺激を減らす時間である。
フェーズ4:爆発期
状態
- 叩く
- 蹴る
- 物を投げる
- 大声
支援者が行うこと
- 安全確保を最優先
- 言語停止
- 周囲刺激遮断
- 観察を続ける
絶対にしてはいけないこと
- 我慢の教育
- 長い説明
- 感情的反応
- 同時多人数対応
爆発期は教育ではない。
鎮静フェーズ。
フェーズ5:回復期
兆候
- 呼吸落ち着く
- 視線が戻る
- 身体の力が抜ける
支援者が行うこと
- 最小限の言葉
- 成功行動へ誘導
- 安心感を提供
してはいけないこと
- 振り返り説教
- 叱責
- 長時間の反省指導
ここでの成功体験が次回を変える。
フェーズ設計の原則
- 層が重なったら介入段階を上げる
- 必ず“やらないこと”を書く
- 距離・声量・指示量を具体化する
- 全職員で統一する
第4章まとめ
強度行動障害支援は、
爆発対応ではない。
段階設計である。
フェーズを書かない手順書は、
設計ではない。
第5章 強度行動障害支援手順書フォーマット
ここでは、分析結果を具体的な支援手順に落とし込むためのフォーマットを提示する。
抽象語は禁止。判断が揃う書式で作成する。
① 基本情報
| 対象児童名 | |
| 作成日 | |
| 最終更新日 | |
| 主担当 |
② 行動の定義(具体化)
例:
叩く=拳で相手の身体に接触する行為
蹴る=足を振り上げ対象物に接触する行為
曖昧な言葉は禁止。「荒れる」などの抽象語は使用しない。
③ スキャッターパターン
出現時間帯/場面:
- 14:30〜15:00 活動切替時
- 課題提示直後
- 集団活動参加直後
→ 手順書への反映:
- 14:20に課題を分解
- 切替2分前に視覚提示
- 集団参加は5分単位で調整
④ 前兆リスト(層別)
第一層(視線)
- 目を避ける
- 一点凝視
- 瞬き増加
第二層(身体)
- 力が強くなる
- 触れられるのを拒否
- 俯いて固まる
第三層(行動)
- 早歩き
- 歩調が合わない
- 支援者呼びかけに無反応
⑤ フェーズ別介入内容
| フェーズ | 介入内容 | してはいけないこと |
|---|---|---|
| 平常 | 成功体験を積む/予告提示 | 急な予定変更 |
| 前兆 | 声量50%/課題分解 | 説得・質問増加 |
| 上昇 | 距離確保1.5m/課題停止 | 身体接触 |
| 爆発 | 安全確保/言語停止 | 我慢の教育 |
| 回復 | 最小言語/成功誘導 | 長時間の振り返り |
⑥ 代替行動設計
例:
- カード提示で課題停止
- タッチで援助要請
- 視覚スケジュール指差し
爆発ではなく、代替成功で終わらせる。
⑦ 更新欄
| 日付 | 修正内容 | 理由 |
|---|---|---|
支援手順書は固定文書ではない。
更新を前提とする。
第5章まとめ
支援手順書は、分析資料のコピーではない。
分析を判断統一ツールに変換する設計図である。
第6章 支援手順書を機能させる運用設計
支援手順書は作ることより、
「回すこと」のほうが難しい。
多くの現場で機能しない理由は、
設計の問題ではなく、運用の問題である。
1. 全員が同じものを見ていない
手順書がファイルの中にある。
会議で作ったが共有されていない。
新人は存在を知らない。
これでは統一は起きない。
運用ルール
- 支援前に必ず手順書確認
- 職員室に印刷版を常設
- 新人研修で必ず説明する
2. 観察が個人依存になっている
「今日は調子が悪そう」
「なんとなく危なそう」
これでは共有できない。
運用ルール
- 前兆リストを統一する
- 層で報告する(第一層出現など)
- 抽象語禁止
3. 更新されない
作成日だけが残り、
最終更新日が空欄。
環境も成長も変化する。
手順も変える必要がある。
運用ルール
- 月1回見直し
- 爆発3回で即再検討
- 更新履歴を必ず残す
4. フェーズ共有ができていない
ある職員は前兆と判断。
別の職員はまだ平常と判断。
この差が刺激を増幅する。
運用ルール
- フェーズを口頭共有する
- 「第二層入っています」と宣言する
- 指揮系統を明確にする
5. 感情的介入が起こる
長時間爆発が続くと、
支援者の感情も上がる。
その瞬間、設計は崩れる。
運用ルール
- 交代制を取る
- 個人判断で延長しない
- 爆発中は教育しないと明文化する
6. 成功事例を蓄積していない
爆発ばかりが記録される。
成功は記録されない。
これでは設計が改善されない。
運用ルール
- 前兆で止められた記録を残す
- 成功誘導の方法を明記する
- 再現可能な形で共有する
7. 支援者が構造を理解していない
表面的に手順だけ守ると、
応用が効かない。
支援者自身が、
・なぜ声量を下げるのか
・なぜ距離を取るのか
を理解する必要がある。
運用ルール
- 定期的に構造勉強会を行う
- 手順の「理由」を共有する
- 仮説更新型であることを理解する
第6章まとめ
支援手順書は作った瞬間から腐り始める。
回し続けて初めて機能する。
・共有する
・更新する
・揃える
・感情を管理する
ここまで設計して初めて、
支援手順書は武器になる。
第7章 ケース適用例
ここでは実際の構造化例を示す。
ケース概要
- 年齢:9歳
- 行動:叩く・蹴る
- 出現場面:活動切替時
① 行動の定義
叩く=拳で相手の身体へ接触
蹴る=足を振り上げ対象へ接触
② スキャッター分析
- 14:30 活動終了合図直後に集中
- 課題停止時に頻発
→ 切替が引き金と仮説。
③ 前兆リスト層別
第一層
- 視線を逸らす
- 瞬き増加
第二層
- 俯く
- 歩調が合わない
第三層
- 早歩き
- 物に触れる回数増加
④ フェーズ別設計
平常期
- 14:20に切替予告
- 成功課題で終了
前兆期
- 声量50%
- 選択肢2択提示
上昇期
- 距離1.5m確保
- 課題停止
爆発期
- 安全確保
- 言語停止
回復期
- 最小限の声掛け
- 成功行動へ誘導
⑤ 代替行動設計
- カード提示で終了依頼
- タッチで休憩要求
爆発頻度は月7回→月2回へ減少。
第7章まとめ
分析だけでは変わらない。
設計に落として初めて変化する。
第8章 強度行動障害支援の本質
強度行動障害支援とは、
技術ではない。
構造理解である。
支援が崩れる瞬間
- 感情的になる
- 説得を始める
- 教育を始める
- 職員間で判断が割れる
これらはすべて、
構造を忘れた瞬間に起こる。
支援が安定する条件
- 前兆を層で共有する
- フェーズで判断する
- やらないことを明文化する
- 更新を前提とする
支援手順書とは何か
それは、
行動問題への対処マニュアルではない。
判断を揃えるための設計図である。
現場が揺れないための、
思考の骨組みである。
最終まとめ
・分析する
・層化する
・フェーズ設計する
・やらないことを書く
・更新し続ける
これができていない支援は、
再現性を持たない。
強度行動障害支援は、
構造で勝負する。
結論
強度行動障害支援は、
「根性」「慣れ」「経験」ではない。
構造理解と設計力である。
支援手順書は、
ただの紙ではない。
判断を統一し、
現場を守り、
子どもを守る、
思考の設計図である。
本稿執筆:楊建亮
合同会社そばかす
児童発達支援・放課後等デイサービス「ふきのこ」
管理者兼児童発達支援管理責任者
強度行動障害支援の現場実践と設計検証をもとに執筆
